立場逆転(へし燭SSS・ワンドロお題)*教師パラレル(リアルへし燭)

初めましては確か9月。
人員不足の高等部に派遣されてから1か月後で。
隣の席がそれなりに整った見た目のやつだな、くらいの印象だった。
「せんせー、前世って知ってる?」
生徒に聞かれ、笑って返していたがふと自分の前世はなんだったんだろうと過ぎった所で・・・その日、夢を見た。
戦場、人を斬る感覚、『使われる』喜び。
思い出した。
・・・思い出して、しまった。
「・・・。・・・人じゃ、ないのか」
夢から覚めた時にぽつりと呟いたそれは一人暮らしの部屋に良く響いた。



一つ思い出せば次々と思い出すもので。
例えば自分が「へし切長谷部」という刀剣だったとか。
例えば人の姿を成して戦っていた記憶もあるだとか。
例えば。
「長谷部先生」
「・・・ん、ああ」
・・・回覧物を回して来る隣の席の同僚は「燭台切光忠」という刀剣だったとか。
同じ時代、同じ主の元で使われた刀剣、燭台切。
己が大太刀だった時代は美術品だった号の無い一振りだった。
「長船先生、サイン忘れてる」
「え、あ」
そんな彼は今書類にサインし忘れて照れた笑みを浮かべている。
長船先生、自分より4つ下の23歳、元陸上部。
前世は自分の方が足が(もっと言えば機動が)速かったと記憶しているのだが。
まあ前世と関係しているといえば自分が高校大学時代に野球部だったことだろうか。
投石が得意だったから「そこに生かされたか」と何となく納得した。
・・・と。
目の前では何やら身長の話に華が咲いている。
此方に振られていないからぼんやり聞いていることにした。
「へぇー、そう。桜井先生身長いくつなん」
「私ですか?170です」
「えっ」
「えっ」
驚いた声を上げたのは聞いた男性教師でも聞かれた女性講師でもない。
「僕も同じくらいです」
「あっ、そーなんですか!」
彼、長船先生のそれに女性講師がからりと笑った。
今の自分は178pと少しある。
確か彼は自分より大きかった気がするのだけど。
いや、小さかった時代もあるかもしれない。
流石にそこまでの記憶まで戻ってはいなかった。
ふと時計を見るとそろそろ授業の始まる時間だった。
席を立ち、教室に向かう。
「長谷部せっんせー!」
「おわっ」
背後からの衝撃につんのめりかける。
「あっ、桜井先生おはよーございまーす」
「はいはい、おはよー」
「・・・おい、こら、降りろ」
生徒の一人に背中に乗られ、思わず低い声を出した。
「へっへー。おっはよー長谷部ーー」
「先生、な!」
「えーだってさー!」
にひ、と笑う男子学生。
自分で言うのもなんだが男子には人気がある。
前世ではこの役目も燭台切の役目だったはずだ。
・・・まあ。
「あー、長船先生おはようございまーす!」
「おはようございます」
にこ、と長船先生が微笑む。
この姿でも女子人気はあちらの方が高いらしいが。
それにしても。
「・・・立場逆転だな」
「えー?長谷部なんか言ったー?」
ぽつりと呟いたそれを目ざとく聞かれ、ぶん、と振り下ろす。
わあい!とはしゃいだ声が響いた。
「言ってない!さっさとランニングに行けっ!」
「長谷部先生が怒るーー!」
あはは、と駆けていく男子生徒と「廊下走っちゃダメなんだよー」と声をかける女子生徒。
まったく、と見送るその横でくすくすと長船先生が笑っていた。
自分よりも背が小さく、力も弱く、それでいて足が速い。
生徒に遊ばれるのは自分の方で、近寄りがたく見られるのは彼の方で。
いつしか逆転してしまった立場だが。
「長船先生」
「はい?」
ふわりと彼が首を傾げる。
穏やかなまなざしは何時だって変わらなかった。
「先生は、前世を信じるか?」








「よぉ、先生」
「うわっ、ちょ、も、何!」
「・・・朝から長船先生にセクハラとは良い度胸だな、相州?!」

(いつだって変わらない関係もそこにあって


前世も今世もなかなか厄介だと思うのです)

name
email
url
comment