愛おしい君へ(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

午前・・・いや、もうすぐ午後


太陽の照り付けが今一番激しい、そんな時間帯





「遅いなぁ・・・」
窓際にぼぉっと頬杖をつきながら呟いた言の葉はどこか自分のものとは違う感覚を呼ぶ。
自分用にと与えられた部屋ではなく、今いるのは長谷部の部屋だった。
「・・・今日帰るって言ったのに」
拗ねたように呟く。
今日は、遠征に行った長谷部が帰ってくる日だったから。
一ヶ月ぶりに彼に会える日だったから。
朝からそわそわしていれば清光が「もー部屋で待ってれば?」と背を押すから素直に来てしまったのだ。
・・・家主のいないこの部屋に。

窓辺に座って外の様子を伺っては空を見上げる。
既に時間は先程から3時間は経とうとしていた。
夕方の、紺でも碧でもない、赤が混じった藤色。
自分とは違う、紫色の瞳。
優しく眇め、時に意地悪な笑顔を見せる、彼。
光忠は彼の目が好きだった。
見つめられると意抜かれたように動けなくなる。
彼女を見る優しい瞳。

早く帰ってきてほしい。
普段そんな言葉を口にしないから。
「・・・早く帰って来ないかなぁ」
肘をついていたのを下ろし、その伏せた腕に顔を埋める。
・・・と。
「・・・ん・・・?」
窓辺の隅に置かれていた小さな箱が目に付いた。
腕を伸ばし、その箱を引き寄せる。
「なんだろう、これ」
蓋を開けても何も入っていないし、ただの古い箱なのかと思ったが、ひっくり返すと小さなねじが付いてた。
そのねじを訝しみつつ、慎重に回す。
「・・・あ・・・」
もう一度開けると共に音楽が流れてきた。
聞いたことの無い曲だが、とても綺麗だ。
「自鳴琴だったのか」
小さく微笑むと、ふと中に挟まっている紙に目がいった。
「・・・?『愛しの君へ』・・・?」
開けるとそんな題名が飛び込んでくる。
手紙だろうか。
「『普段口に出来ないことを此処に書き記そうと思う。
俺は燭台切光忠、彼女を愛している』え、何これ」
柔らかい音に乗せて手紙は愛を告げていた。
思わず顔が紅くなる。
『初めて顕著したときは驚いた・・・記憶の中、男だと思っていたのが女性型だったからだ。可憐な刀だという印象は変わらなかったが見た瞬間に胸が高鳴ったのを今でも覚えている。あの綺麗な刀を俺のものにしたいとどれ程願ったか。だから光忠が俺の告白を受け入れてくれた時、本当に嬉しかった。世界はこんなにも明るいのだと。
光忠は俺に光をくれる。彼女は俺が光だと思っているが、それは違う。彼女、燭台切光忠ほ俺の光だ。
俺はこの遠征から帰った時、彼女をめとりたいと思っている・・・愛おしい、光忠』
「・・・光忠」
ふいに耳元で声が聞こえる。
驚く光忠の背後から温もりが伝わってきた。
「長谷部、く」
「これから、毎日俺の帰りを待っていてくれないか」
「え、と」
「・・・俺と、結婚してくれ」
「!!」
振り向いた彼女が見たのは息を切らし、微笑む長谷部だった。
嗚呼、これだから。
ふわり、と頭から白い布がかけられる。
簡易なそれは恐らく花嫁がつける綿帽子。
「汝、燭台切光忠は、幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることを誓うか?」
「・・・誓います」
へりゃりと笑う。
そのまま彼の胸に飛び込んだ。

愛しい貴方がいるから


いつだって幸せです

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