「出来ちゃった♡」で三種三様(光忠受け)

「大倶利伽羅さん」
縁側に座っていた彼に僕はにっこりと笑って見せる。
「慣れ合うつもりはない」とか言いながら意外に付き合ってくれる事を僕は知っていた。
「・・・何だ」
「ちょっと来てくれません?」
そう言いながら彼を引っ張る。
「面倒事はごめんだ」
「まあまあ、そう言わず」
嫌な顔をする大倶利伽羅さんに僕は笑いかけた。
それでも着いてきてくれるのだからいい刀なんだと思う。
「いーから早く来てよ、へし切!」
「だからへし切と呼ぶなといつも言って・・・!」
向こうからは清光に手を引かれた長谷部さんがやって来るのが見えた。
あちらも僕に気が付いたみたいで、にやりと笑う。
僕らが向かう先には黒い装束の「彼」。
「いたいた、燭台切さーん!」
「お待たせしました、光忠さん!」
「は・・・?燭台切?」
「光忠・・・??」
「あ、長谷部くん、倶利伽羅も」
にこりと彼・・・光忠さんが微笑む。
本当に綺麗な笑みを見せる刀だ。
清光も見習えばいいのに。
「・・・ちょっと、安定?!」
「いた、痛いなあもう。何すんの」
「何すんの、じゃないよ、ったく」
清光がぶすくれるけど、今はそんなこと良いんだ。
だって。
「あのね、二人とも」
すい、と光忠さんが息を吸う。
僕らはそっと下がった。
おずおずと光忠さんが何かを二人に向かって差し出す。
「・・・出来ちゃった」
「・・・は??」
ぽかんとした声がぴたりと揃った。
「出来たって、何が・・・」
「やだなあ。これ見ても分からないの?」
ひょこりと清光が顔を出す。
僕もその後に続いた。
「主の時代の・・・妊娠検査薬ですよ」
「妊娠・・・?まさか、燭台切、お前」
「やや子が・・・?」
「・・・うん」
二人の問いに光忠さんが嬉しそうにお腹に手を添えて頷く。
・・・なんだ、光忠さんものりのりじゃないか。
ちなみにというかなんというか、これは真っ赤な嘘だ。
二人があまりにも無鉄砲に出陣するから分からせてやりたい、協力してくれないかな?なんて言われれば協力せざるを得ないよね。
まあこれで信じるなんてこともない・・・。
「まさか俺の子が出来るとは・・・」
あ、信じるんだ?!!
意外と純粋なんだろうか。
「・・・大倶利伽羅は兎も角、へし切まで信じちゃったよ」
どーすんの、と耳打ちしてきたのは清光だ。
知らないよ、そんなこと、と目で訴える。
呆然としていた内最初に動いたのは大倶利伽羅さんだった。
自分の上着を脱ぎ、すっと光忠さんの肩にかける。
おお。
「・・・倶利伽羅?」
「体を冷やすな。やや子に障る」
「・・・うん」
へにゃりと光忠さんが笑う。
所謂『すぱだり』ってやつかな。
「・・・待て。お腹の中の子は俺の子だろう?」
「・・・」
「長谷部、くん」
長谷部さんが光忠さんの白い手を取る。
見た事の無い表情で微笑んで。
「順序が遅くなってすまない。・・・光忠、俺と華燭を燈さないか」
「・・・!」
かあ、と光忠さんの顔が赤く染まった。
告白なんてよくやるよね。
なんて思いながらふと横を見ると清光が固まっていた。
・・・あー、こいつも好きだわ、こういうの。
ほんと、どうしてくれようかなあ・・・。
「・・・織田に居ても光忠は幸せになれない」
固い声に長谷部さんがむっとする。
「何だと?」
「光忠は伊達の刀だ。光忠は俺が護る」
「・・・はっ、聞いて呆れるな。顕著したのは俺の方が先だ。その手を離せ、大倶利伽羅」
「え、えと、長谷部くん?倶利伽羅???」
予期していなかった事態におろおろと光忠さんが二人を見た。
「嫁入りは俺の元と道理が決まっている」
「自分勝手だな。それで光忠が幸せになれると思っているのか?」
・・・ええと、この二人仲良くなかったっけ???
やっぱり光忠さんの事となると違うのかな。
と。
黒い影が落ちた。
「じゃあ黒田に嫁入りしろや」
「・・・日本号さん」
きょとん、とした顔で光忠さんが振り仰ぐ。
うわあ、またややこしいのが。
何時から聞いてたんだろう。
「貴様、日本号、俺の光忠に許可なく触れるな!」
ぐん、と長谷部さんが光忠さんの肩を抱いた。
むっとしたように日本号さんと大倶利伽羅さんが長谷部さんを見る。
「へえ?誰が誰のだって??」
「光忠を織田に嫁がせた覚えはない」
「織田じゃない、俺の元に、だ!」
「やめとけやめとけ。お前のところなんかにやったら燭台切が可哀想だ」
「何?!!飲んだくれの貴様が幸せにできるとでも?!」
「光忠は俺が娶る。お前らなんかじゃない」
日本号さんが光忠さんを背後から抱き、大倶利伽羅さんが長谷部さんの反対側の腕をとった。
わあ、何か大変そう。
「・・・燭台切さん」
「・・・ん?」
とてて、と清光が光忠さんに近付く。
あわあわしながら、彼の口元は綻んでいた。
・・・ああ、なんだ。


――今、幸せ?
――うん、幸せだよ



(おまけ・大太刀長谷部×織田時代光忠)
「国重様!」
可愛らしく駆けてくる刀、末の光忠を抱き留めて「どうした」と聞いてやる。
「国重様、光忠、出来ちゃいました!」
「何がだ」
ひょこひょこと跳ねる可愛らしい様子に目を細めていたが次の言葉に思わず固まった。
「やや子です!」
「・・・は?」
「ですから。やや子が出来たのですよ、国重様!」
無邪気に笑う様子はそれはそれは可愛らしいが、はて何を言い出すのだろうか。
「・・・。お気に召しませんでしたか?」
「・・・うん?」
不安そうな様子で光忠が首を傾げる。
何を、言っているのだろう。
「どういうことだ」
「そう言えば国重様が喜ぶと教えて頂いたのですが・・・」
いけませんでしたか?と光忠が純粋な目で問うて来た。
つまり、悪い大人に弄ばれたのだろう。
・・・まったく。
「光忠よ」
「はい、国重様」
光忠を抱き上げ、目を合わせる。
「やや子が出来たと言うのは嘘なのだろう?」
「そ、れは・・・」
「嘘は、良くないな」
不安の色を濃くする藤色の瞳にそう言ってやれば涙をにじませた。
如何すれば宜しいですか、と必死に問うてくるのが可愛らしい。
嗚呼、だから大人に遊ばれるのだと言うに!
「嘘を真にすれば良い」
「・・・嘘を・・・真に・・・んんぅ!!」
俺の言葉を反芻する光忠に口吸いを施す。
黒の着流しを崩し乍ら、ぽやりとする光忠に笑いかけた。
「本当に孕ませてやる。・・・今宵は覚悟しろ。良いな?」
「・・・は、い」

藤棚の花が夜風に戦ぐ。
今夜も長くなりそうだ。

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