初恋(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

つまらない場所だと思った。

「今晩は、長谷部様」
「これはこれは。この度はお招き頂きまして・・・」
本当に退屈だ。
こんなダンスパーティー、早くやめてしまえばいい。
そう鬱々と思いながらも、長谷部は綺麗な笑みを張り付けた。
嫌ならば行かなければ良い、と人は言うが長谷部はそういう立場ではない。
長谷部は隣国の王子だった。
金や権力のある貴族とは友好関係を築かなくてはならない。
だから興味もないダンスパーティーに出掛け、顔を売っているのだ。
此処の当主に会うのは確か2度目、気難しい彼に上手く近づき、この場に取り付けたのである。
つまらない、と言っている場合ではないのはわかっていた。
(それにしても同じ話ばかりだな)
笑顔を張り付け、長谷部は思う。
何故貴族というのは同じ話ばかりなのだろう。
「・・・ん?」
と、大広間より先、エントランスホールに一人の少女の姿が見えた。
黒いドレスに同系色の短い髪。
ダンスの相手を探しているわけでもない。
かといって帰ろうとしているわけでもない。
ぼんやりとその場に佇んでいるその様子に、長谷部は目を離せなくなった。
「失礼、質問をしても?」
「どうかしましたか?」
「あの少女は?」
当主の話を遮り、長谷部は聞く。
「ああ、あれですか。一人娘の・・・おい!」
「・・・?」
当主に呼ばれ、娘が振り返った。
不思議そうな金の眸は片方を隠している。
すらりと伸びる手足は透き通るような白。
それに良く映えるような漆黒のドレスに大きなリボンはセクシーさと共に彼女のあどけなさを表しているようで。
綺麗だ、と思った。
感動するとまあこんなにも言葉が出ないものかと長谷部は小さく笑う。
それほどまでこの少女は美しかった。
歳はいくつだろうか。
名前は?
声は?
気になる点はいくつもある。
が、どれも言葉には出来ず、長谷部はいつも通りの笑みを形作り、近づいてくる娘に手を挙げた。
とてとてと当主に近付き、背に隠れてしまう。
初心な様子はそれだけで長谷部をそそった。
「こら、挨拶をしないか」
「・・・」
叱る当主にびくりと躰を震わせて、少女はおずおずと顔を見せる。
長谷部を見上げ、小さく会釈をした。
その様子はとても可愛らしい。
「いや、無理をしなくていい。あそこで何をしていたんだ?」
優しく聞くと少女は少し考え、ふわりと笑った。
「星を、見ていたの」
「星?」
「ええ」
少女が微笑む。
それから慌てて当主の背に隠れた。
恥ずかしがり屋なのだろうか。
見上げれば確かにエントランスホールの少し先から外の景色が見えた。
しかし、舞踏会に来て星を見るとは。
変わっているなと思った。
「いや、変わった子で」
「ダンスパーティーだからと言って必ず踊らなければならないと言う規定もないでしょう。・・・俺は素敵だと思いますがね」
申し訳なさそうな当主に長谷部は笑う。
すると安心するように少女が再び顔を出した。
「星・・・好きなのですか?」
「うん?」
「あの、えと、こっちに星が綺麗に見える場所が、あるんです!」
「こら、光!」
長谷部の袖を掴み、当主に「光」、と呼ばれた少女が嬉しそうに言う。
「・・・あ・・・」
「・・・。連れて行ってくれるか?」
不安そうに見上げる少女に長谷部は優しく笑って言ってやった。
「・・・!はい!」
ぱあ、と少女が嬉しそうに笑う。
成程幸せとはそういう事かと思った。


今思えばこれは恋だったのだろうと思う。
長谷部にとって、初めての恋。


「おっかえりー長谷部」
「国重様、良い娘は見つかりました?」
「・・・加州、乱と薬研に連絡を。大和守、此処の家を余すところなくすべて調べろ」
「「・・・我が王の命ずるままに」」


ーー
高塔の姫(R-18)の前日譚

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