はじめまして/ひとめぼれ(ねんへし燭ワンドロ

「ずるい」
「え?」
ぶすくれた声に光忠と長谷部が振り向く。
「なんだ、大和守」
「君がそういうなんて珍しいね、安定君」
「僕だってねえ・・・」
ふるふると震えていた安定がびしりと指を差し、二人を睨む。
「ねんどろいど欲しいですよ!!!」
指を差した先、そこにはねんどろいどの長谷部と光忠が仲睦まじく菓子を食べていた。
長谷部と光忠の二人もそれを見ながら休憩を取ろうと思っていた矢先である。
「何、俺じゃ不満?」
「なんだよ、お前もねんどろいるくせに」
安定の肩に顎を乗せるのは清光だった。
むっとしつつそれでも態度を軟化させる安定。
それにほっとしていると隣の光忠がくすくすと笑う。
「でも、あの二人の『初めまして』はあんまり良いものじゃなかったんだよ?」
「そうなんですか??」
光忠のそれに安定が驚いた表情をした。

それは、そう。
ある雨の日の事。

主が連れてきたのは小さな自分、『ねんどろいど』というへし切長谷部だった。
何処からどう見ても自分そっくりで、己がもう一人いるようだな、と長谷部は溜息を吐く。
「あるじはおれをつかってくださるだろうか」
「お前が部隊長として鍛錬すればな」
目をきらきらさせて言うねんどろいどに長谷部はあっさり言ってやった。
「むろんだ。あるじさまのおやくにたてねばかたなではない」
「では、今の部隊長に挨拶でもしておけ」
言い方もそっくりで、己を見ているようで少々腹立たしく思いながらも首根っこを引っ掴む。
「おい!かりにもおれはおまえだぞ!」
「お前はお前だろう。俺はお前の様な体躯ではない・・・おい、燭台切!」
「どうかしたのかい?長谷部くん」
ある部屋の前で彼を呼ぶと、ひょこりと顔を出した。
「ねんどろいどの俺だ」
「ああ、顕著したんだね。初めまして、燭台切光忠だよ」
「・・・ああ」
短く言うねんどろいど長谷部にくすりと光忠が笑う。
「じゃあ僕のねんどろいども紹介しておくね。・・・ねんくん!!」
「・・・?」
光忠の声に、机の上に居たねんどろいどの光忠が燕尾の裾を揺らして下りてきた。
途端、小さな己の目が見開きぶわりと桜が舞う。
とてて、と駆け寄った己の分身は何かを彼に囁いて。
ねんどろいど光忠の目が驚いたように開かれ、わなわなと震え出した。
それから。
「〜〜!!!!」
凄まじい肌を打つ音が聞こえたと思ったらねんどろいど長谷部の頬が真っ赤に腫れていた。
思いもよらぬ事態にこちらは・・・ねんどろいど長谷部もか・・・ぽかんとするばかりである。
「・・・は?」
「え?
「ちょ、ねんくん?!!」
ぱたぱたと走り出したねんどろいど光忠を、光忠が慌て乍ら追いかけようとし、「ごめんね、良く言っておくから!!」とこちらに声をかけた。
「待って、ねんくん!!」
「・・・お前、ねん光に何言ったんだ」
「・・・。・・・おれは」
光忠を見つめつつ、そうこっそり聞けばねんどろいど長谷部がぶすくれたように言う。
「おれのものにしてやるからおれのもとへこいといっただけだ」
「・・・」
「ひとめみてほしいと、そうおもった」
その返答に長谷部は宙を仰いだ。
やはりこれは自分の分身なのだと。
嗚呼、恋を自覚した己と同じではないか。
流石に自分は口に出したりしなかったけれど。
「・・・。・・・あのな、ねん。あいつにも一応刀としてのぷらいどがあってだな・・・」
はあ、と溜息を吐き出し、長谷部はそう切り出した。
もう一人の自分ともう一人の光忠だ。
くっつくのもそう遠くないだろうと、思いながら。


(そういえば自分も一目惚れだったな、と思い出す


彼と、自分との初めまして)

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