しょうぶ(へし燭SSS・ワンドロお題)*R-15

「知っているか、光忠」
「・・・何が」
真向かいの光忠から不機嫌そうな声が返ってくる。
俺はぱしゃりと水飛沫を上げてその近くに寄った。
「しょうぶとあやめ、杜若は別物なんだぞ」
「・・・そう」
「しょうぶも、こうして菖蒲湯にする葉菖蒲とそこに咲く花菖蒲も別物だ」
「・・・へえ」
「なんだ、興味なさそうだな」
くすくすと笑えば、光忠がきっと俺を睨み付ける。
「君と二人でお風呂なんか入ってるんじゃなかったらもっと興味持ったよ、僕は!」
光忠が俺から距離を取り、ぱしゃぱしゃと水飛沫が跳ねた。
「何故そう警戒する?」
「君とお風呂ってのが一番信用ならないから!」
「つれないな。そんなに嫌なら上がればどうだ」
「ぜっったいに嫌!!」
俺から逃げながらも頑なに風呂から出ようとしない光忠にくすくすと笑う。
彼が風呂から出ない、そのわけは。

何の事はない、俺が勝負を持ちかけたからだ。
先にのぼせ、風呂から出た方の負け。
単純な賭け事。
「しかし、風呂は狭いからなァ?すぐに捕まえてしまうぞ?」
「!」
するりと光忠の腰を撫でる。
慌てたようにその身が引かれた。
・・・その先が壁とは気付かずに。
「ほら、もう逃げられないな?」
「・・・ふ、ぅ・・・!」
彼の腰を抱き、優しく撫で上げてやる。
それでも湯からは上がろうとしなかった。
まったく、負けず嫌いもいいところだな。

これが、どこまで続くやら。


ぱしゃぱしゃと水飛沫が跳ねる。
ゆらりたゆたう花菖蒲。

(勝負の行方は紫の花だけが知っている)

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