Fiorituren(へし燭現パロR-18

設定を読み大丈夫な方のみお進みください
ーーー



「こんなはずじゃなかった」
そう、長谷部くんが呟く。
口から溢れる紫の花。
嘘ばっかり。
本当は望んでたんでしょう?




僕は花埋病。
体から花が咲く病気。
花を抜いたら記憶を失ってしまう。
完治するには花を抜くしかない。
花で埋まってしまったら死んでしまうから。

「なんだ、長船。また体から花が生えてるぞ」
「え、うそ」
隣のベッドから聞こえる長谷部くんの声に僕は慌てて背を探る。
あ、本当だ。
今日は白い花。
「いいじゃないか、綺麗だぞ?」
「やめてよ」
笑う声に混じって花弁が落ちる。
…また法螺を吐いたんだね、嘘つき。

僕らは隔離病棟に入れられている、所謂モルモットだ。
僕は花埋病。
長谷部くんは花吐病。
嘘を吐く度に花を吐く病気。
完治する見込みはない。
唯一あるとするならば真実の××を飲み込むこと。
嘘が花になるなんて面倒じゃないんだろうか。
「長谷部くん」
「ん?」
こちらをみる長谷部君に僕は首をかしげ口を開く。

ねぇ僕のこと、好き?

「ああ、好きだ」
ぽろぽろ、紫の花。
ああ、ほら、また嘘。
「お前の病気の治し方は知ってるんだ」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
君がまた法螺を吹く。
窓から入る冷たい風が背中の白い花を揺らした。
ああ、僕は。
「きっと外に出ようね」
「きっとだ」
(嘘つき)
(そんな嘘に救われてる僕も大概なんだけれど)
ふと、院内コールが響いた。
「今日は俺か」
「そうだね」
音が止むと同時に長谷部くんがベッドから降りる。
掌を上に向けて腕を胸の前に平行に移動させた。
綺麗にお辞儀をする。
執事みたい。
僕もそれに続いてベッドから降りる。
入院着の裾をつまみ上げてぺこりとお辞儀。
「誠に残念ですが」
「とても遺憾でありますが」
「「貴方に適応する薬は見つかりませんでした」」
二人の声が重なる。
思わずぷっと吹き出した。
薬がないなんて慣れっこだ。
だって不治の病だもの。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
毎度の儀式もこなし僕は手を振る。
「…ぅ、あ」
長谷部くんが出ていってから僕はベッドに突っ伏した。
花があるから僕は生きれない。
花がないと記憶がなくなる。
記憶なんてなくてよかった。
なのに。
「…ばか」
君と出会ってから記憶が愛おしくなってしまった。
お願い。
君との記憶を捨てれない僕を殺して。
白い花を引きちぎる。
今度はなんの記憶がなくなってしまったの。
【早くこっちに来れば良いのに】
窓の外、ブーゲンビリアの上から誰かが笑った。
薬の副作用か、いつからか見えるようになった僕の分身。
嫌だ、誘わないでよ、僕は君とは違うのに!
白い花が赤く染まる。
【君はそうやって足りないものを赤で誤魔化すんだね】
五月蝿い、煩い煩い!
頭の中で怒鳴って、水の無い花瓶に花を投げ入れた。
ガラス窓をなぞる。
僕の、デキソコナイ。
…デキソコナイは僕の方だっけ?
もういい、分かんない。
それから溜まった花を囁き声で数える。
【ねえ、君はいつ死ぬの?】
…死ぬ時は、一緒だよ。



「…長船」
頭上から長谷部くんの囁き声がした。
どうやら眠ってしまったらしい。
「…長谷部、くん?」
うっすらと目を開けて囁き声で返した。
「この病気が治るかもしれない」
「…え?」
思わぬそれに疑問符を浮かべる。
何を、言っているの。
「…方法が一つだけあるんだ」
長谷部くんが笑った。
「…何?」
「お前と性交渉をする」
「…は」
「正確に言うならそういう事をしながら互いの花を食う。簡単だろう?」
不気味な笑顔で言う長谷部くんは花を吐いていない。
あまりに楽しそうだから言葉が出なかった。
「俺と生きよう、長船」
…ああ、神様

「…ぅ、あ、あっゃ、ら、ぁ…!」
「長船、長船…」
愛しそうに長谷部くんが僕に触れた。
僕の身体を突き花を食らう。
ぐちゃぐちゃ、もう分かんない。
「ふぁ、あ、はせ、長谷部く、ね、僕のこと、好き?」
「…ああ、愛してる」
ぽろぽろ、溢れたのは紫の花か別の何かか。
水音と僕のあえぎ声、それから長谷部くんの激しい息遣い。
君の声は細く、途切れずに聞こえてくる。
ああ、もう、分からないや。
「ひぅ、や、ぁあっ!はせ、長谷部く…!!」
怖くなって長谷部くんにすがった。
手を握り返してくれる、君が、好き『だった』よ。
僕らは奇病。花吐病と花埋病。決して治ることのない、病気。
「はせ、ぅく、ぁあっ!長谷部く…!」
「長船、大丈夫、大丈夫だ!」
笑った君が花を吐く。
「ふぁ、ひんっ、怖い、怖いよ…!」
僕は泣きじゃくりながら花を咲かす。
堕ちた、病棟。
午前五時半。
終わりにしよ?
きっとまだ間に合うから。
僕は花埋病。
咲いた花で埋まったら死んでしまう病気。
開花条件は、『 』を与えられること。
「ぅあ、ぁあっ!!」
びくんっと体が跳ねる。
快楽か、それとも花が咲いた振動か。
明かりはない。
花瓶に刺した花は萎れてしまった。
ねえ長谷部くん、僕知ってるよ。
君が花を吐く本当の条件を。
花を吐かなかったら君がどうなってしまうのか。
二人して眠りに溺れてしまうのも悪くないんじゃないかな?
「…ぅあ、君を殺して…僕、も…死にたい」
…ああ、何で何も言ってくれないの。
(君がそんな顔するから眠れないのに)
熱を吐き出されてとろとろと目を閉じる。
「…好きだ、愛してる…光忠…」
沈む、僕の耳に届く声。
「…ぼ、くも…」囁き声でやっと答える。
それくらい許してくれたっていいだろう?
ねえ神様。
君に明るい朝が来ますようにと、僕は目を閉じた。
(僕に訪れない朝を、君に)




「こんなはずじゃなかった」
長谷部くんが頭を抱えて呆然と崩れ落ちた。
目線の先では花を満開に咲かせた僕の体が運ばれていく。
…ああ、そうか。
長谷部くん、花は吐かなくなった?
大丈夫、僕が君にブーゲンビリアの花を降らせてあげるから。
(最期に僕が咲かせた、花)

name
email
url
comment