つめたいもの(ねんへし燭ワンドロSSS

つめたいもの

つめたいものってなんだろう?
氷、大理石、刀の刃先。
それからそれから?

それからね…。


残暑厳しい夏だった。
と、いうか現在進行形で残暑厳しい夏である。
9月など、暦の上ではとうに『秋』であるのに。
「…暑い」
「今年は残暑厳しいよねぇ」
思わず呟けばそれを聞いた彼、光忠がくすくす笑いながら麦茶を差し出してくる。
それを受け取り、一気に飲み干した。
そのまま、はあ、とため息を吐く。
「昨年はもう少しましだったんだがなぁ」
「そうだね。…ねんくんたち、だれてない?」
可愛らしく笑う光忠に顎で指し示した。
「?…うわっ」
驚いた声に俺は笑う。
それはそうだろう。
ねんもねん光も薄着で、冷を取り入れようとしているのか俺の机にへとりと俯せているのだから。
「もー、二人とも、格好悪いよ?」
「…あつい」
ねんの言葉にねん光も頷く。
この二人は【夏】が初めてなのだから仕方ないが。
「じゃあかき氷用意してあげる。おいで」
「…かき、ごおり?」
「…??」
きょとんとした表情をする二人に光忠は呼び寄せ、二人を連れていく。
さて、どこに連れて行く気か…おおよそ、目星は着いてはいるけれど。
少し遅れて立ち上がり、そこに足を運ぶ。
「…!すごい、ゆきだ!ゆきだぞ、みつ!!」
「〜!!?!!!」
「ふふ。これは雪じゃなくて氷なんだよ」
はしゃぐ二人に光忠は笑って氷を削っていた。
「はい、どうぞ」
差し出したそれには硝子の器に氷が高く盛られている。
上から透明の蜜をかけ、光忠は笑って見せた。
「たべれるのか?!」
「もちろん。冷たくて美味しいよ」
匙を渡された二人は顔を見合わせまるで穴を掘るようにかき氷を掬い、口に含む。
「?!!」
「つめたい!あまい!!」
嬉しそうに表情を綻ばせる二人。
よほど美味しいのかもう夢中だ。
「光忠、俺のは?」
「ないよ?」
ふわりと笑い、欲しかったら自分で削って、と光忠は言う。
「冷たいな、お前は」
「何とでも」
「…みつただは、つめたいのか?」
氷を貪っていたねんが首を傾げた。
答えを聞く前に光忠の手に触れる。
「あついではないか」
「え?…う〜ん、まあ、人の体だしねえ…?」
「ねん。冷たいのは光忠の態度だ」
「ちょっと、長谷部くん?!」
俺の言葉に光忠が声を荒げた。
まったく、うるさいやつ。
「みつのほおはつめたいな」
「??」
ぺと、とねんがねんみつの頬を触る。
…さっき、暑いと言ってなかったか?こいつら。
「きもちいい」
「!」
ねんのそれにねん光がにこりと笑う。

冷たいものってなあに?

氷、君の態度、貴方の体温。


(貴方と一緒ならいつだってあたたかいの!)

name
email
url
comment