指輪(へし燭SSS・ワンドロお題)

主の時代には、好いた相手を縛り付けておくものがあるらしい。

「なんだ、これは」
銀色に光る、小さな輪上のそれを見せられ、俺は首を傾げた。
「指輪だよ、へし切知らないの?」
俺に見せてきた相手、加州がこてりと首を傾ける。
「へし切言うな。…指につける装飾品だろう?」
それを返しながら言えば加州は頬を膨らせ、情緒がない、と言った。
なんだ、それ。
「そうだけどさあ!何かもうちょっとさあ?!」
ぷんすこと怒る加州は受け取ったそれを左手の薬指につけた。
あれはあそこに着けるものだろうか。
「…。…燭台切さんにもあげなよ、喜ぶよ?」
「は?」
ふっと加州が微笑む。
それはどこか幸せそうで。
きらりと左手の指輪が光った。



かちゃかちゃと食器を洗う音がする。
台所を覗けば光忠が昼飯後の片付けをしていた。
「おい」
「…長谷部くん。どうかしたかい?」
声をかければ、俺を認めてふわりと微笑む。
白くて長い指。
余り見られるのは好きではないようだが、俺は綺麗だと思う。
その、綺麗な指に俺の印をつけることが出来たらどんなに良いだろう。
ふと加州が着けていたそれを思い出して俺はにやりと笑った。
…ああ、なるほどな?
「…?…長谷部くん?」
不思議そうに光忠が俺を見る。
光忠の手を持ち上げ、俺はそこに口付け。
「痛っ。…え?え??」
左の薬指に噛みつき、歯形を残した。
「後で部屋に来い」
それだけを言い残し、俺は台所を出る。
目に焼き付く、白い肌に残る紅い跡。
それはまるで己に光忠を縛り付けておくような、そんな。

ただ形が見えるそれより強く強く縛り付けたい

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