雪(ねんへし燭ワンドロSSS

「雪でも降れば良いのにな」
「?」
 俺の言葉にきょとりとした表情で振り仰ぐのは
ねん光だ。
 光忠はと言えば「…長谷部くんは寒いの苦手なのに雪は好きだよねぇ」とからから笑うばかりで、相手にもしない。
 まあ俺も冬が来る度に言うから仕方がないといえばそうなのだけれど。
「雪はいいぞ。白は全てを覆い隠す。…色とりどりに染まった季節の色を塗りつぶしてしまうのだから」
 上機嫌に言う俺にねんは少し嫌そうだ。
 そういえばこいつも寒いのは苦手だったな…。
「あんなもの、くうきちゅうのごみやちりのかたまりだろう?なにがよいんだ」
「分かっていないな、お前は」
 訊ねてくるねんに俺は教えてやる。
 綺麗な黒を、隠してしまえるのは白だけだと。
 黒を纏う美しい黒を隠してしまえるのは汚らしい白だけなのだと。
「ふん」
 どうでも良さそうな返事をしてねんはすたすたとねん光の傍に行く。
「みつ」
「?…!!!♡」
 不思議そうにねんを見、両腕を開けたそれにぱあ、と表情を崩した。
 そのまま抱き着くねん光をねんが抱きとめる。
「ほら、ゆきなんぞにたよらなくても…かくさなくてもみつはおれのものだ」
 ふふん、と笑うねん。
 …腹が立つな。
「お前な…」
「それに、しろはゆきでなくてもたくさんある」
 にこりと笑ってねんはねん光に何かをかけた。
 あはは、と光忠が笑う。
「これは長谷部くんの完敗、かな?」
「ぐぬぬ…」
 悪意のないそれに俺は何も言い返すことが出来なかった。
「みつにつめたいおもいをさせたくは、ないからな」
「…!」
 冷たい風が白い布を揺らす。
暖かな思いを乗せて…今年も白い雪が舞い堕ちた。
「あ、ほら、雪!」
「お、漸くか」
「…!みつ、ゆきだ!!!」
「!!!♡」
 その後、あれほど興味がないと言っていた割に降り積もった雪にはしゃぎまくり、びしょびしょに服を
濡らして主に呆れられたのは…また別の話である。


「興味がないんじゃなかったのか?」
「そうはいってないだろう」

「ふふ、みんなおやつにしよう?雪の結晶、作ったんだよ」
「!!♡」

(綺麗だと思わなくたって、わくわくしてしまうのは…性というものでしょう?

好きな人の笑顔を見られるんだから!)

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