ねん光に浴衣を着せたいねんへしの話(へし燭)
「ゆかたというものをしってるか」
そう、ねんどろいどへし切長谷部に聞かれたのは…少し前の事である。
「浴衣?」
「知ってるけれど…どうかしたのかな」
きょとりと目を瞬かせたのは加州清光、優しくそう聞くのは山姥切長義であった。
「みつとゆかたをきてはなびというやつをみたい」
ねんへしのそれに二人はああ、と笑う。
みつ…ねんどろいど燭台切光忠と彼が恋仲なのは周知の事実で、よくねんへしがねん光を振り回しているのもまた、周知の事実であった。
本体によく似たのだろうな、と思う。
「手伝いたいのは山々だけど、俺、裁縫ってあんまり得意じゃないからなぁ」
「俺も。…ごめんね、何も与えられなくて」
申し訳なさそうに二人は笑んだ。
「そうか…」
「へし切に聞いてみたら?」
「でかいのがそれをするとおもうか?」
清光のそれにねんへしが言う。
ぶんぶんと清光が首を振った。
「ううん、ごめん。そうね、俺が間違ってた」
「主に聞いてみるのが早いんじゃないか?」
首を傾げるのは長義である。
この本丸の主、元の職業は仕立て屋であった。
「そうなんだが…おんなものをきせるだろう?」
ねんへしの言葉に「あー…」と二人は何とも言えない声を出す。
この主、腕は良いが「楽しいんだもん」と女物ばかり作る衒いがあった。
「…ま、頼み込めばいいんじゃない?やったげるよ、それ」
「そうか、たのむ」
「で、何処で花火を見るつもりなのかな?」
にこりと笑う清光に、ねんへしは頭を下げる。
それを微笑ましげに見ていた長義がふと聞いた。
「はなびたいかいがあるときいたが」
「あぁ…あるにはあるけど、お薦めはしないかなぁ、人混み凄いし」
「音も大砲みたいだし、俺もお薦めしないかな」
「む」
口々に言う二人にねんへしは眉を顰める。
ならばどうすべきか、と悩むねんへしに二人は顔を見合わせてにっこりと笑った。
我らがこの本丸の初期刀と近衛…協力するとなると凄まじい力を発揮するのだ…良くも、悪くも。
「良いところ知ってるよ、俺たち」
「本当か?!」
「勿論だとも。特別に教えてあげよう」
嬉しそうな表情になるねんへしに、清光と長義が
優しく笑む。
その笑みがどういうものかを…ねんへしはまだ、
知らない。
はあ、とへし切長谷部はあからさまに溜め息を吐き出した。
どうしたんだい、長谷部くん、と不思議そうに見るのは燭台切光忠である。
「どうしたもこうしたもあるか!」
「ふふ、二人とも似合っているよね。主に作ってもらったんだって」
怒れる長谷部に光忠はのほほんと言った。
清光はあの後本当に、ねん達の浴衣を作ってほしいと主に訴え出たのである。
主はどうしても女物を作りたかったらしいがお願い(と言う名の脅し)されて渋々黒地に芥子色の模様が入った浴衣と、濃紫の地に金の刺繍が入った浴衣を作ったようだ。
なるほど、ねんへしが上機嫌なのにはその辺が理由だったかと合点がいく。
「それは良いが、何故俺達の部屋の庭で花火をやっとるんだこいつらは!」
びしぃっと指を突き指したその向こう側、ねんへしとねん光が仲良く花火を見ていた。
…見ているのは良い。
昔、花火大会に光忠と行ったことがあると自慢した際、悔しそうにしていたのを知っていたからだ。
では、何か。
やっているのが清光と長義、それに大和守安定と山姥切国広であるのが問題だった。
何故よその部屋である彼らまで人のところで花火をやっているのだろう。
「ここからだと花火がよく見えるんだって」
「ああ、前に行った、祭りの花火か?」
「うん。ねんくんたちは小さいし人混みも大変だから。静かに見れるところのほうがいいんじゃないかって」
「…そうかもしれんがなぁ」
光忠がいうそれに長谷部は詰まった。
一見して理にかなった意見である…が。
「別にあいつらまで呼ぶ必要なかったんじゃないか?花火は俺たちだけでやっても」
「いいじゃないか、夏の風物詩なんだし。それにみんなでやるほうが楽しいよ」
にこりと笑う光忠。
「それに、賄賂を貰っちゃ…断れないからね」
「…お前が甘いから付け上がるんだぞ」
まったく、と小さく溜息を吐く。
確かに、冷えた麦酒と茹でた枝豆などを持ってこられては文句も言えないのだけれど。
「はいはい。…長谷部くんも花火どうぞ」
楽しそうに光忠が花火を差し出してきた。
それをじんねりと見上げ、もう一度溜息を吐いてから…長谷部は何本か纏めて持ち立ち上がる。
「貴様らさっさと自室に戻らんか!!」
「ぎゃーっ!機動おばけがんなもん持って走ってくんな!!」
「へし切っ!危ないだろ……うわぁあ!!」
「みつ!にげるぞ!」
「○△□※?!!;;;」
「長谷部さん、火の粉!火の粉かかるわぁあっ!」
「落ち着け、長谷部!こんなことしても何もならないぞ?!」
「もう、長谷部くん危ないよ??」
「問答無用!!」
ぎゃーぎゃーと追いかけ回す長谷部を呆れつつ、光忠が見ながらふと夜空を見上げた。
遠くで鳴る、花火の音。
「花火、始まったよ!」
光忠が声をかける。
夏は、まだまだこれからだ。
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