純情少年と悪いお姉さん/ザクカイ♀

なんやかんやあって、鬼ヶ崎カイコクが女体化した。
ユズの薬を誤って飲んだだとか、パカが企んだ質の悪いゲームの一部だとか色々言われていたが真相は定かではない。
大体、過程はどちらでも良いのだ…この場合。
「鬼ヶ崎さん、めちゃくちゃ可愛いですねぇ!肌もすべすべだし、羨ましいわ」
「おっぱいもカリリンよりカイさんのがおっきそうだにゃー?触っても良いかい?」
「あぁあ、セクハラは駄目ですよぅ」
「構わねぇよ、路々さん。伊奈葉ちゃんもどうだ?」
最初こそ全員慌てたが命に別状はないと分かれば手のひらを返したように女子はきゃっきゃと楽しそうである。
…少し羨ましい。
男子は…主にアンヤとザクロだが…どう見れば良いのか分からなくて宙を見つめていた。
「カイコクさん!俺も触りたいで」
はい!と元気に手を挙げるアカツキが言い終わる前に、「駄目だ!!」と二人の声が被る。
「えぇ…何ゆえ…」
「いや、駄目だろ!鬼ヤローでもそれは駄目だろ!!」
「いくら鬼ヶ崎とはいえ、今は女だ!みだりに、そんな、破廉恥な…!」
「…俺ぁ、構わねぇけど…?」
アンヤとザクロが止める中、きょとん、とするカイコク。
「カイさんはもうちょっと自己管理をしっかりした方が良いと思うぜ?」
「…?」
ユズがにっこりと笑い、カリンとヒミコがぶんぶんと首を縦に振った。
思わずザクロははぁあと溜息を吐き出す。
全く、人の気も知らないで!

部屋に戻りベッドに倒れ込んでから、ザクロは本日何度目かの溜息を吐き出す。
今日は本当に疲れた。
何せカイコクは全くいつも通りだったのだから。
服もいつも通り着崩すし、ゲームではひょいひょい戦闘しようとする。
それの何が悪いか。
カイコクの胸が…大きいのである。
戦闘の度にたゆんと揺れるそれは目の毒だ。
パカメラが盗撮しようとするので己の上着を投げつけ、「貴様は暫く待機だ!」と怒鳴りつけたのは一度ではない。
もう少し自身を大事にしてほしいものだが…と。
コンコン、という扉を叩く音に、ゆっくりと身体を起こす。
「…は、ぃ……」
「忍霧」
扉を開けたザクロを待っていたのは…ぱぁ、と表情を輝かす…パカメラを抱えた下着姿のカイコクだった。
「なっ、なっ、な…?!」
「ちょいと邪魔するぜ」
顔を赤くするザクロにカイコクはぽいとパカメラを投げ気にしない風に部屋に入ってくる。
「服を着ろ、貴様ぁあ!」
「風呂に入る途中だったんだ、仕方ないだろ?」
ザクロの叫びにカイコクはきょとん顔だ。
「脱ごうとしたらパカメラが来るし、大体路々さんに貰った下着も一人じゃ脱げないしよ。中々このホックが外れなくてなぁ…」
飄々と言うカイコクはふと止まり…振り仰いでにこりと笑う。
「忍霧、とって」
花が咲くように微笑むカイコクはそれはそれは綺麗で可愛くて。
「きっ、貴様…!」
だからこそ悔しいのだ。
…カイコクが自分を揶揄ってるのが分かるから。
自分が女性が苦手な事を…知っているから。
「取れねぇから取ってってお願いしてるだけだぜ?…お、し、ぎ、り」
クス、と笑うカイコクに…自分の理性がぶつんと切れる音が…聞こえた。
「…いっ…何しやがる、忍霧…え…」
表情を歪めるカイコクが、やっべ、と言う顔をするがもう遅い。
ザクロとて男なのだ。
「あの、忍霧?やり過ぎた…悪かったから…な…?」
「…鬼ヶ崎は…男だよな…」
「いやまあそうだが…今は女だぜ…?良いのかぃ…?」
「煽りに煽りまくったのは誰だ?」
「だから、悪かったって…」
普段とは違うザクロにカイコクは多少なりとも怯えているようだった。
…聞けば恐らく否定するだろうが。
「…。…次はないからな」
はぁ、と溜息を吐き出し、ザクロはベッドから降りてくるりと後ろを向いた。
「分かった」
「貴様は…自分の事を分かっていなさ過ぎる」
「だから、悪かったって言ってんだろ…」
少し拗ねたようなカイコクにザクロはまた小さく溜息を吐き出す。
「悪かったと言うなら早く自分の部屋に帰るんだな」
そう言葉をかけ暫く後ろを向いていたが…一向に出ていく気配が無く、不思議に思い振り向いた。
「…どうした」
「お前さんの部屋に来た理由は言ったはずなんだがねぇ…」
恥ずかしそうに…わざとかもしれないが…カイコクが言う。
カイコクがザクロの部屋に来た理由。
「貴様っ、あんな、ことがあった後で良く…!」
「…これでも信用してるんでェ、…なぁ、忍霧?」
へにゃ、とカイコクが普段より幼く笑うから。
ザクロは頭が痛くなる。
…嗚呼全く、これだから!!
「忍霧、とって…?」

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