浅葱色の贈り物

丁度良い所に、と笑顔で呼び寄せたのは山姥切長義である。
「?んだよ」
「これを祖…燭台切さんの所に持っていってもらえるかな」
差し出されたのは白い布であった。
触り心地が良く少し暖かいから、先程まで日光に当たっていたのだろう。
「いーけど。自分で持っていけば……」
「なら、君が代わりに残りの洗濯を全て畳んで各部屋の箪笥に入れてくれるのかな、和泉守兼定?」
にっこり微笑む長義に兼定は少し引き攣った笑みを見せる。
悪かったと謝り、燭台切光忠がいる厨に向かった。
「おぉい、燭台切ぃ」
「兼定くん、どうかした?」
中に向かって呼び掛ければ何やらおやつを作っていた光忠が振り返る。
「何作ってんだよ?」
「大学芋だよ。お味見どうぞ」
覗き込めば微笑みながら一つ差し出してきた。
皆には内緒だからね、と笑うそれは何とも悪戯っぽく、少し意外な印象を受ける。
「ん、美味いな」
「ありがとう。ところで、僕に何か用事かな?」
はふはふと口内の湯気を逃しながら自然の甘さが絶妙なそれを食していれば、光忠が小さく首を傾げた。
「あぁ、これ。山姥切の…長義の方から」
「…あ、これね。…えっと、わざわざ来てくれて悪いんだけど清光くんの方に持っていってもらえるかな」
「はぁ?…別に構わねぇけど」
「助かるよ。おやつも持っていってあげて」
にこりと笑った光忠が持たせてくれた、大学芋が乗った皿と空の湯呑みが2つ置かれたお盆と長義から渡された白い布を持ちつつ、訝りながら次の部屋への向かう。
「おーい、邪魔する…」
「兼定うっさい!」
声をかけた途端睨むのは加州清光だ。
普通に声をかけただけなのに何を、と文句を言おうとしたが、部屋に足を踏み入れただけで全てを察してしまった。
「主ねぇ、徹夜明けだって」
清光がお盆を受け取りながら苦笑する。
「作品が上手くできないって散々悩んで静かな俺の部屋でひたすら納得いくまで作ってたけど、漸く満足いったみたい。寝かせてあげて」
笑みの先では机に突っ伏して寝る主の姿があった。
なるほど、それに漸く納得する。
光忠が寄こした訳も、長義に持たされたものの正体も。
「ありがとな。…燭台切がおやつ用意してるぜ。今なら出来たて食えるかもな」
「おっ、やったね」
清光が立ち上がり部屋を出ていく。
それを見送って、兼定は白い布をかけてやった。
主の綺麗な指から紡がれる作品は、兼定も大好きだけれど、あまり無理をしないでほしい、と思う。
自分よりも短い主の黒髪に指を通す。
聞こえないよう、そっと囁いた。
「大学芋が冷める前に起きろよ、主」
さあ、と部屋に舞い込む風はどことなく秋の匂いが、した。

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