汝、人狼成り也?~始まりの朝~(カイコク総受け風味)

その昔、恐ろしい人狼がとある村を襲った。
被害は膨大で、多くのものが命を落としたのだという。
ある者は家族を、ある者は愛した人を、またある者は信頼している仲間を、人狼によって奪われたのだ。
人狼…満月の夜に人間を食べた狼が月光の魔力でその人物に成り済まし、家族や周りの人間を餌食にしていく…忌むべき存在。
人狼の夜は不死身だ。
しかし、昼の間は魔力の加護が弱まり、人狼の弱点である薔薇の毒で倒すことが出来る。
しかし、薔薇の毒は普通の人間も死に至らしめてしまう為、全員に飲ますわけにはいかなかった。
そこで国王は村にあるお触れを出す。

【村に隠れた人狼を見つけ出し、処刑せよ】、と。

集められた人間は全部で11名。
その中に人狼がいると、全員が知っていた。
「怪しいと思しき少年少女から3匹の人狼を見つけ、毒を飲ませて処刑…ね。国も野蛮な手を使わないともう後がないってことかな」
くす、と誰かが笑う。
少年少女はお互いに顔を見合わせていたが、埒が明かない、と一人の少女が立ち上がった。
「いつまでも黙っていては進まない。先だっての司会進行はボクがやろう」
にこり、と少女が笑い周りを見回す。
誰も異論がなさそうなのを確認し、少女は話し出した。
「人狼に対抗するため、国が寄越した役職は5つ、予言者、霊能者、埋毒者、勇者、そして狩人」
ふわふわした白髪の少女が指を折りながら言う。
「人狼は全部で3匹。それを全て倒せば…ボクたち村人の勝利だ」
「でも、人狼側にも協力者がいるって」
「うん、そこなんだよ、少年」
髪に白のメッシュが入った少年に、少女は頷いた。
「人狼を村に引き入れた、狼によく似た狐がいる。まあ、狂信者ってやつだね」
「…一体、何のために」
桃の髪色をした少女が小さく呟く。
それは分からないけど、と白髪の少女が笑った。
「それは人狼に聞いてみるしかないかな。…さて、話し合いに先立って自己紹介をしようじゃないか。その時の仕草や表情は投票の参考にもなるしね」
「…そう言うのは、言い出した者が先にすべきではないか」
黒いマスクの少年が言う。
それにふむ、と頷いてみせた少女が笑みを作った。
「それもそうか。…ボクは路々森ユズ。しがない探求者ってだけの人間だ」
にこりと白髪の少女が笑う。
すると隣に座っていた少年が元気に手を挙げた。
「じゃあ次は俺ですね!俺は入出アカツキ、と言います!俺も人間です。よろしくお願いします!」
無邪気に笑う、髪に白のメッシュが入った少年に、うるせーよアホ、と暴言を吐いたのは隣に座っていた少年である。
「こら、アンヤ!」
もー、と窘めるのはそのまた隣に座っていた青年だ。
目つきが悪い少年とはよく顔が似ていた。
「俺は駆堂シンヤです。それから弟の…」
「…駆堂アンヤ。シン兄もオレも人間だから」
申し訳なさそうに笑む兄と、不機嫌そうに言う弟。
そんな言い方、と困ったようにシンヤは言うものの特別叱ることもないから日常茶飯事なのだろう。
なるほど、兄弟関係は良いらしかった。
「うん、アン坊は分かりやすくて良いな。んじゃあ次」
「…更屋敷カリンよ。私も人間。何か文句ある?」
促すユズに、ふい、とそっぽを向きながら言うのは桃色の髪をした少女である。
強がっているのか、組んだ手が震えていた。
「ええと、伊奈葉ヒミコです。わっ、私は人間です…。あと、あの、こちらの方は逢河マキノさん。あまりおしゃべりはしない人ですけど、人狼なんかじゃないです!」
震える声で言う小さな少女は、椅子に腰掛けうとうとする少年の紹介もする。
「君たちは知り合いなのかにゃ?」
「いっ、いえ!ここに来るまで迷ってたら助けていただいて」
ユズの問いに少女はいくらか和らいだ笑顔で答えた。
「…。…俺は忍霧ザクロ。人間だ」
「忍霧サクラ!私達は双子なの。もちろん私も人間よ、宜しくね」
静かに言うマスクの少年とは正反対ににっこりと笑って言う少女。
双子だというだけあってよく似ているが性格には差があるらしい。
「オレ、赤札チヒロ!人間だ!ぜってー人狼を見つけ出してやる!」
元気に言うのは赤髪の少年だ。
「ほぉう、威勢が良いな」
可笑しそうに笑うユズがちらりとその隣を見る。
「最後だ。君は?」
「…。…俺ァ鬼ヶ崎カイコク。人間だぜ。…宜しくな」
黒髪の少年…青年だろうか…がふわりと微笑む。
「一通り自己紹介も終わったところで…始めようか。命をかけた話し合いってやつをさ」
ユズが、両手を広げる。
こうして、人狼を焙り出す為の…少年少女による話し合いが…始まった。

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