リクエストのザクカイ/マキカイ

カイコッくんが眠そうに目を擦っていた。
僕はともかく、彼が眠そうなのは珍しいなと思いながらそっと近づく。
「…カイコッくん」
「…。…逢河…?」
ぼんやりと僕の呼びかけにカイコッくんは見上げてへらりと笑った。
「…どうした、逢河。お前さんが珍しいじゃねェか」
何でもない顔でカイコッくんは僕に笑みを向ける。
でも、僕は知っていた。
カイコッくんが眠たい理由を。
部屋で寝ていれば良いのに、それをしない理由も。
…出てくれば余計皆が心配するのに。
だからって人前では寝顔を見せないのも僕は知ってる。
だから。
「…」
「?なんでぇ」
僕が差し出したそれに、カイコッくんはきょとんとした。
受け取って少し目を見開く。
「お前さんのアイマスク。…良いのかい?逢河も使うだろうに」
こてりと、首を傾げるから、持ってる、と頭の上を指差した。
そして。
「…お揃い、いや?」
「…!…そうじゃねェよ。…わりぃな…」
驚いた、と言わんばかりに綺麗な目を大きく開き、それからくすくす笑う。
アイマスクを着けて、ちょっと借りるな、と言うカイコッくんに、こくんと頷いた。
暫く後、規則正しい寝息が聞こえてくるから余程眠かったんだろうなと思う。
目元を覆っている僕のアイマスクに、彼の役に立って良かったという気持ちと、寝顔を見れないのは少し残念だと言う気持ちが入り混じった。
傍に人がいるのは嫌がるだろうから僕はその場を立ち去る。

…願わくば、彼が悪夢に苛まれませんように。


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鬼ヶ崎が寝ている。
人がいる場所で寝るとは珍しいな、と思いながらよくよく見れば、目元はマキノくんがいつも着けているアイマスクで覆われていた。
寝顔は見れず、規則正しい寝息だけが聞こえてくる。
俺は隣に腰を掛け、鬼ヶ崎を見つめた。
俺は知っている。
…人前では寝顔を見せない鬼ヶ崎が、見られるリスクを犯してまで眠気に勝てなかった理由を。
「…鬼ヶ崎」
俺は知っている。
…俺が囁いても起きない、その理由が…俺だと言うことも。
それは…マキノくんも、多分。
俺は鬼ヶ崎の綺麗な手を取り、するりと甲当てを取った。
そして。
「いっ?!…ふぇ?え?忍、霧??」
痛みに飛び起きた鬼ヶ崎がアイマスクを外し、涙目で俺を見る。
「おはよう、鬼ヶ崎」
「ああ、ウン、おはようさん…??」
混乱しきり、と言った鬼ヶ崎にひらりと手を振った。
…鬼ヶ崎の薬指に付けた跡と同じ、歯型がある指の手を見せつけるように。
「茶でも飲むか」
「あぁ…」
立ち上がって言う俺に未だクエスチョンマークを頭に貼り付けた鬼ヶ崎は…どうやらまだ気付いていないらしい。
俺が付けた印に。

秘密の、お揃いに。

恐らく、席に戻れば目元を真っ赤に染めた鬼ヶ崎に怒られる気配がするから、ご機嫌取りに好物でも付けてやろうと…俺は足を進めたのだった。

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