Valentine×Birthday(マキカイ)

ぼんやりしながら僕は廊下を歩く。
今日はバレンタイン。
ユズちゃんやヒミコちゃん、カリンちゃんがチョコをくれた。
だから僕も皆が好きそうなチョコを渡す。
「流石はマキマキだにゃー」と笑うユズちゃん、「いいんですか?!ありがとうございます…!」と驚いた様子のヒミコちゃん、「ホワイトデーの時で良かったのに…」とはにかむカリンちゃん…三者三様の反応だったけれど、みんな喜んでくれたのが嬉しかった。
アカツキくんとアンヤくんにはエッグチョコ…の中に食堂のおかわり自由の焼肉券(あんまりもらえないんだって)を入れておいたらとび上がっていたし、ザクロくんにはキノコ型の渡したら大切にするって言ってた…僕は美味しい内に食べて欲しいと思うけど…皆が嬉しいのは僕も嬉しい。
…あと、は。
「…カイコッくん」
「逢川?」
部屋の前の廊下に探していたその人がいて、声をかけた。
振り向いたカイコッくんが首を傾げる。
「どうしたんでぇ」
「…これ…バレンタイン」
甘い物が苦手なカイコッくんに、甘くないチョコを差し出した。
びっくりしたように目を見開いたカイコッくんがふわりと笑う。
「…いつも悪ぃな、逢川。俺にまで気ぃ使わせて」
「…。…僕、カイコッくん…好き、だから」
「そりゃあ…」
「…本命…」
いつもみたいに躱そうとするカイコッくんを壁に追い詰めた。
分かったから!と観念したように声を上げる。
「気ぃ使わせたなんて言って悪かった。ありがとな、逢川」
くす、と笑ったカイコッくんに離れようとした…その時だった。
くん、と袖を引かれて僕は首を傾げる。
「…?」
「…いつも、逢川にゃあ貰ってばかりだからなぁ…柄でもねぇんだが」
小さく笑いながら差し出されたのは、可愛らしいラッピングの包み。
「…カイコッくんが……?」
「まさか。チョコ作りは遊びじゃねぇって嬢ちゃんと伊奈葉ちゃんから止められた。…飾り付けだけだな、やったのは」
そう言いながらカイコッくんの耳元は真っ赤だった。
「…開けて、良い?」
「どーぞ」
許可を得て開いた包みの中にはちょっと不格好なチョコが入っていて。
「…上手く出来たと思うんだが…」
ほんの少し心配そうなカイコッくんに僕は可愛い、と言う。
そうかい!と嬉しそうなカイコッくんはやっぱり可愛かった。
「バレンタインだし、聞きゃあ今日誕生日なんだって?お前さん。チョコを作ってやれれば良かったんだが…すまねぇな」
「…たん、じょうび」
カイコッくんのそれにそういえばそうだったと思い出す。
あまり興味がないから忘れてた。
「なんでぇ、忘れてたのかい?」
楽しそうに肩を揺らすカイコッくん。
「何が欲しい?逢川」
こてん、と首を傾げるカイコッくんが可愛くて可愛くて、僕は思わずキスをする。
「…んっ!ふ…」
少しびっくりした顔のカイコッくんは、チョコを食べたわけでもないのにとても甘かった。
「ぁ…あい、かわ…?」
「…カイコッくんが、欲しい」
ぽや、と僕を見るカイコッくんの肩に僕は顔を埋める。
可愛らしい笑い声が僕の耳をくすぐった。
ぽんぽんと頭を撫でられる。
「…しゃーねぇなあ……誕生日サービスでぇ」
特別な、と笑うカイコッくんは…やっぱりとびきり可愛くて…好きだな、と…そう思った。


甘い甘い、チョコレートが苦手なのに、チョコレートよりも甘いカイコッくん。

あまり好きではない僕の誕生日は…今年は特別なものになりそうだ。

「あい、かわ?なぁ、逢川?!このまま寝ないでくれねぇか、なあ?!!」
「…ぐぅ」

(珍しく響く彼の焦った声も…特別だ、なんて)

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