夢と現を融けこませた、その先で/ザクカイ

「…っ!!」
酷い悪夢を見て飛び起きる。
汗が尋常じゃない。
時計を見れば午前2時。
俺は。

鬼ヶ崎カイコクの首を絞める、夢を見た。


はあっ、と熱い息を吐き出す。
あれから眠れなかった俺は、ゲームもないと言っていたのもあって自室でゆっくりすることにした。
なんだってあんな夢を見てしまったのだろう。
俺は、鬼ヶ崎に対してあんな願望があるとでも?
いや、ない。
あるわけない。
あるわけ…。
「…はぁ」
何度目かのため息の後、俺は外に出ることにした。
このままでは陰鬱な気分になってしまう。
…マキノくんは、悪夢を見た時はどうすれば良いと言っていただろうか。
震える手を見つめた。
感覚が…まだ残っている気がして。
あれは本当に夢だったんだろうか。
あんな…あんな。
「…忍霧?」
ふわり、と声がかけられる。
緩慢に顔を上げる、俺の目の前には。
「…鬼ヶ崎」
件の、鬼ヶ崎が…そこにいた。
生きていた、と俺は何故か…なんだ、と思った。
「どうしたんでぇ。暗い顔して」
「…いや…何でも……」
「…。…来るかい?茶くらいは出すぜ」
小さく言う俺に鬼ヶ崎は笑いながらそう言う。
力なく頷き、俺は誘われるまま鬼ヶ崎の部屋に入った。
座っていれば、鬼ヶ崎はいつも通りにお茶を淹れ始めた。
綺麗な動作をぼんやりと見つめる。
「で?何だってそんな面してんだ、お前さんは」
差し出された湯呑みを受け取りながら、鬼ヶ崎の顔を見る。
何も知らない、鬼ヶ崎の顔。
「…貴様の首を絞める…夢を見た」
「…へえ?」
俺のそれに、鬼ヶ崎は楽しそうだ。
自分が、人の夢で殺されそうだっていうのに!
「俺が怖いと、思わないのか」
「そうさなぁ」
その質問に、鬼ヶ崎は湯呑みを傾けた。
一口お茶を飲み、ゆっくりと笑う。
「お前さんは、リアクターって知ってるかい?」
「…。…化学反応を起こさせる、装置のことだろう。小学生の時、社会科見学で見た」
唐突なそれに、俺は首を傾げながら答えた。
なんだ?いきなり。
「俺は、あの光を綺麗だと思う。夢にもたまに出るぜ。…忍霧は、俺の首を絞める夢を見てどう思った?」
「…どう、って」
「嫌だとか自分が怖いだとか…存外綺麗だった、とか」
柔らかい言葉に俺は鬼ヶ崎を見る。
…そうだ、綺麗だったんだ。
首を絞められて、それでも笑う鬼ヶ崎が。
鬼ヶ崎の部屋に、陽の光が差し込む。
外から響くのは誰の声だろう。
ぴくりと手が動く。
あの、細い首を絞めたら奴は如何するんだろうか。
柔らかく抵抗するだろうか。
それとも受け入れるだろうか。
嗚呼、夢の中の鬼ヶ崎は如何だった?
息が上手くできない。
「…おに、がさき」
「…ぁ…」
細い首に手をかけた。
圧した喉がぴくりと跳ねる。
耳鳴りが、止まない。
喧しい。
…そのまま、力を…込める。
「…ぉ、…ぃ…」
苦しそうに歪められる、鬼ヶ崎の口から溢れる言葉は泡のようで。
ハッとして手を離す。
げほごほと鬼ヶ崎が息を取り戻し、激しく咳き込んだ。
「すっ、すまない!!!」
「…いや…。煽ったのは俺だ。気にすんない」
顔を歪めながら鬼ヶ崎は笑む。
「それで?」
「…え?」
鬼ヶ崎が【笑む】。
…もうどこか壊れてしまった目で。
(そもそも、どこからが夢だった?)
「綺麗だったろう?」
赤い痕をなぞりながら、鬼ヶ崎が…笑んだ。
「…ははっ」
俺は笑う。
そうか、とっくに壊れていたのか。
鬼ヶ崎も、俺も、この世界も。
なぞる手を取って俺は。
「…綺麗だったとも」
そう、ゆっくりと笑った。

(なんでお前さんが泣きそうなんでぇ!)

(世界を壊したのは…お前さんだっていうのに!!)

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