6月24日金曜日、天気は雨(ザクカイ)

雨、雨雨、梅雨の季節。

朝から降り続く雨にザクロは溜息を吐き出す。
雨はあまり好きではなかった。
日課のジョギングもままならないし、気分も落ちてしまう。
…そんな中、上機嫌な男が1人。
「…鬼ヶ崎?!」
外に出られないのなら図書室にでも行こうかと思っていたザクロがふと窓の外を見、思わず声を上げる。
「…ん、おお、忍霧!」
それに気付いたのかにこにこと手を振ってくるから「そこにいろ!」と声をかけ、タワーの外に走った。
「うわっ、お前さん、傘くれぇ持ってくりゃ良かったのに」
「貴様こそっ!こんな雨の日に何処へ行くつもりだ!」
雨に濡れてきたザクロに眉を顰め、番傘の中に入れてくれる。
それに感謝を述べる前に非難する言葉が出た。
「散歩だが…?」
「…いや、雨だぞ?」
「??雨は散歩しちゃダメな法則でもあるかい?」
きょとんとし、心底わからない、という顔をするカイコクに、ザクロは戸惑う。
普通は晴れ…散歩なら曇りが適切ではなかろうか。
「普通は行かないと思うが」
「なんで?」
「何故って…濡れてしまうし、だな…」
口籠るザクロに、カイコクは楽しそうに笑う。
「何の為に傘があるんでぇ」
「…。…貴様は、雨が好きなのか?」
「ん?まあな。この傘が使えるし、何より風情があんだろう?」
綺麗な笑みを見せるカイコクが、まさか風流がどうとかを言い出すとは思わず、ザクロは目を丸くした。
「…意外だな」
「なんでぇ、お前さん、俺を何だと思ってやがる」
ザクロの失礼な発言にもカイコクはくすくすと笑うだけで。
よほど機嫌が良いのだな、と思う。
「その時にしか楽しめない音や風景、色…雨は、良いぜ、忍霧」
「ならばもっと教えてくれ」
ふわふわと笑うカイコクにそう言えば、嬉しそうに、ああ、と頷いた。
「気に入った場所があるんだ、連れて行って…忍霧?」
可愛らしく言う彼に、見惚れていれば無言のザクロを不思議に思ったのだろう、首を傾げる。
すまない、と謝って…その手を引いた。
「ん?!ふ…」
番傘の中、マスクを外し、カイコクに口付ける。
ザァ、という雨の音だけが響いた。
「…は…。…いきなりっ、何…!」
「…いや、こうして口付けてもバレないのは雨も存外良いものだな、と」
「…っ、お前さんなぁ…」
呆れたように言いながらもほんのりその色は番傘と同じ色に染まっている。
なるほど、雨の時にしか見ることが出来ない彼の表情は。
「可愛らしいな、鬼ヶ崎」
「忍霧?!」
ザクロのそれにカイコクが声を上げる。
珍しい彼のそれに、なかなか雨も悪くないな、と思ったのだった。

(雨粒のあたる音が響く、番傘の中、普段より距離が近い彼と…二人きり)

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