おそろい(へし燭)

ふわり、と目の前を通り過ぎた山姥切国広の「細く赤い」襟締めが揺れた。
「?」
視界に入ったそれの違和感に首をかしげ、長谷部は、おい、と呼び止める。
「?どうした」
振り向き、こてりと首を傾げる国広に向かってそれ、と指を差した。
差された方は不思議そうな表情をしたもののすぐに、ああ、と笑う。
「本歌がな、どうしてもお揃いが良いというものだから」
返された単純明快なそれに今度はこちらが首を捻った。
「同じものを、身につけていたいんだと」
「ほう。また何故」
「さあ?だが優越感はあるが」
「うん?」
小さく笑う国広に疑問を返そうとすれば向こうから「偽物くん!」との声が聞こえる。
振り向けば国広と同じ蝶々結びの赤い襟締をした長義が駆けてきた。
「本歌、俺は偽物ではないと…」
「はいはい。…何、へし切もいたのか」
「居ては不味かったか、山姥切。と、いうかへし切と呼ぶなと…!」
いつも通り注意しようとして、どうしても首に目が行く。
優越感、なるほどなぁと思った。


それから。

「珍しいね、長谷部くんが万屋なんて」
「たまには、な」
くすくす笑う光忠を連れて長谷部は万屋に来ていた。
彼と揃いのものがどうしても欲しかったためである。
結局選んだのは金の鎖に宝石の着いた腕輪であった。
華美な装飾品ではなし、何より普段は服の下に閉まっておけるのが良いと思う。
首飾りでも良かったが内番で悪目立ちしても困るだろう。
髪に、とも思ったが生憎己も光忠も結えるほどのそれはない。

ちゃりちゃりと音がする。
黒い装束の下、彼がつける己と揃いのそれは。

(独占欲の証)

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