お誕生日会議!(ミクルカ)

「あのですね、聞いてくれますか、初音さん」
「その前に一ついいですか、初音さん」
「何ですか、初音さん」
私のそれに手を挙げるからどうぞ、と許可する。
すぅ、と息を吸った。
「…なっんでオレの家にいるんですかねぇえ?!」
「わぁ、渾身だねぇ」
「…そりゃあどうも。で?何の用です」
呑気に拍手する私に呆れた目をするのは私、初音ミクの先天性男体亜種、ミクオくんだ。
髪型以外は私そっくりなんだよねー、当たり前だけど。
「つっめたいなぁ。カイコちゃんに嫌われちゃうよ?」
「お生憎。カイコ姉さんは優しいんでー」
んべ、と舌を出すミクオくん。
もー、可愛くないったら!
「カイコちゃぁん!お宅の弟さん何とかしてよぅ!」
「…どっちかと言えば、ミクちゃんの方がお姉さんな気がするけれど…」
苦笑しながらお菓子とジュースを運んできてくれたのはカイトお兄ちゃんの先天性女体亜種、カイコちゃんだ。
こちらはミクオくんと違って髪型もお兄ちゃんにそっくりなんだよね。
柔らかく微笑む顔とかお兄ちゃんそっくり。
「それで、どうしたの?ミクちゃん」
「…カイコちゃん…!」
ふわ、と笑みを見せるカイコちゃん…やばい、崇めてしまいそう…!
「カイ姉ぇ」
「だって、困ってるのにそのままにしておけないでしょ?」
ブスくれた目のミクオくんにカイコちゃんが言う。
「オレ、誕生日なんだけど?!」
「その話朝も聞いたよー…。ちゃんとお祝いするから、ね?」
「約束な?!!」
「分かった分かった」
たじたじのカイコちゃんに詰め寄るミクオくん。
普段、レンくんとかに見せてるのはもうちょっとクールな感じだから、頑張ってるんだなぁって思う。
それにしても、誕生日かぁ。
誕生日…誕生日??
「ミクちゃんもお誕生日、祝ってもらうんでしょう?」
「毎年賑やかだよなぁ、そっち」
「…へ……?」
にこやかに言うカイコちゃんと、そういえば、なんて上を向くミクオくんと。
…呆けてる私、と。
「…もしかして、忘れてた?」
「…忘れてましたね」
「…もしかして、聞いて欲しい話って、ルカさんが朝から構ってくれないとか、そんなことだったりする?」
「…しますね」
淡々とされる質問に小さくなる私…。
あぁあ、そっかぁ…もうそんな時期かぁ……。
「…あのさぁ?!」
「…しょーがないでしょぉ?!この時期はすっごい忙しいんだから!!忘れがちなの!13年もVocaloidやってると忘れちゃうの、誕生日!」
「忘れるなよ、一応機械だろ!」
「一応って何よ!」
「まあまあ」
ぎゃーぎゃー揉め出す私達をカイコちゃんがくすくす笑いながら止める。
「そのせいでカイ姉ぇといちゃいちゃ出来なかったんですけど?!」
「それは申し訳ないけど、そっんな怒ることなくない?!私だってルカちゃんといちゃいちゃしたいもん!」
「…なら、しましょう?」
ふわ、と柔らかい声がした。
…誰の?
ルカちゃんの。
…ルカちゃんの?!!
「ルカちゃん?!いつの間に!」
「つい先程ですわ。…こちらが出来上がったので持ってきましたの」
びっくりする私に微笑んだルカちゃんはクールボックスを差し出す。
「あ、ありがとう!ルカさん!」
「いえ。カイコさんのお陰で今年は違ったものに挑戦できましたわ」
ふわふわ笑うおっとり二人に思わず笑顔になった。
あー癒やされるぅ…。
「で?何作ったの」
「ネギアイスケーキ、だよ?」
へにゃ、と笑うカイコちゃんの髪についた緑のリボンが揺れた。
あ、あー…そういうことぉ…。
「…帰りましょうか、ミク姉様」
「そうだねぇ、お邪魔しても悪いし」
こそこそと囁きあってそっと部屋を出る。
パタン、とドアを閉めて、息を吐いた。
「…ミク姉様?」
「なぁに?ルカちゃん」
首を傾げる私に、ルカちゃんがその、ともじもじしながら見上げてくる。
かっ、可愛い!
うちの妹兼恋人が大層可愛い!!!
「わっ、私も、その…いちゃいちゃしたい、と思ってます、のよ?」
「…はへ?」
おずおずと言われたそれに、歌姫らしからぬ間抜けな声が出た。
…今、なんて??
「ルカちゃん、今…」
「…もう、忘れないでくださいね?」
むう、とした珍しい表情のルカちゃんが抱きついてくる。
「…お誕生日おめでとうございます、ミク姉様」
ちゅ、と触れるだけの口づけの後、聞こえた囁きに、私はもう混乱しっぱなしで。
あの、あのルカちゃんが?!
おっとりお嬢様で恥ずかしがりなルカちゃんが?!!
「…帰りましょうか、ミク姉さ、ま?!」
「ルカちゃんさあ…煽るのは良くないと思うんだよねぇ、初音さんねぇ」
「…み、ミク姉様?!」
ぐい、と手を引いて抱き寄せる。
ピンクの髪に結ばれた緑のリボンが揺れた。
…ほっんとさあ…!
「忘れられない誕生日、だね…。お互いに」
顔を近づけてにっこりと笑う。
ぴゃっとルカちゃんが逃げようとするから引き止めて深いキスをした。

今日は私の誕生日。
大切な人が祝ってくれる、大切な日。

もう絶対に忘れないからね!


(…ああ、でも。
私が忘れてもルカちゃんが、覚えてられるように。
今夜は覚悟しててね?ルカちゃん!)

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