ワンドロ/虹

虹の袂には宝物があるらしい
そんな、大概夢見がちな物語



「ねえ、知ってる?!!」
わくわくしながら二人を見上げたのはバーチャルシンガーの鏡音リンだ。
何を、と面倒くさそうに聞く彰人にリンは気にした様子もなく、くるりと回る。
「虹の袂には宝物があるんだって!」
「…はあ?」 
ターンして笑う彼女に彰人は素っ頓狂な声を上げた。
「…んだ、それ」
「あー!彰人くんってば、レンと同じ反応なんだから!」
馬鹿にしたようにも聞こえるそれにリンが頬を膨らませる。
彰人、と窘める声に振り向けば両手に飲み物を持った冬弥がいた。
「…俺は、少し気になるが」
「ホントっ?!さっすが冬弥くんだね!」
無邪気に笑うリンに、冬弥はああ、と頷き、持っていたそれの一つを差し出してくる。
温かいカフェオレを受け取り、口に含んだ。
「虹の袂、というのは通常見つけるのが困難らしい。だから、幸せになれるとか宝物がある、と言われるのだろうな」
「へぇー!冬弥くん物知りー!」
「本で読んだだけだ」
冬弥の話をわくわくと聞くリンは微笑ましく映る。
彼に妹がいたらこんな感じだろうか、と思った。
「わたしさぁ、虹見たことないからよく分かんないけど…虹ってきれい?」
「…そう、だな。俺は綺麗だと思うが」
「へぇ!ね、冬弥くんはさぁ、虹の袂にどんな宝物があると思う?」
「俺か?…そうだな…」
リンの質問に考え込む冬弥を見、これは長くなりそうだと息を吐き出す。
「冬弥、そろそろリミットだぞ」
「…もうそんな時間か。…すまない、リン」
ちょいちょい、と時計を指差せば、冬弥は小さく謝罪した。
「そういえば、今日は用事なんだっけ。行ってらっしゃい!」
「ああ。…宝物、次来るまでに考えておく」
「うん!彰人くんもね!」
「はぁ?!オレもかよ!」
楽しそうなリンに声を上げるが、彼女は気にした様子もなく、バイバーイ!と手を振る。
瞬間、白い光に包まれた。
眩しいと思ったのは僅かで、目を開ければいつもの光景が広がる。
グッと背伸びをし、隣の冬弥に行こうぜ、と声をかけた。
だが彼は動かない。
「冬弥?」
「…あぁ、すまない。…虹が、綺麗だったから」
ぼうっとする冬弥の名を呼べば、はっとこちらを見、そんなことを言った。
「虹?んなもん…あ」 
眉を顰めるがふと目線を上にやれば綺麗なそれが広がっていて。
思わずスマホを取り出し空を切り取った。
「…?彰人?」
「…今度これを見せりゃ、リンも満足だろ」
「…ああ」
小さく笑みを見せる冬弥に、またスマホを向ける。
響くシャッター音は確かに彰人の【幸せ】を切り取っていて。 
虹の袂に宝物、とは真理だと思った。


(虹の袂、視線の先にはいつもお前が!)

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