温もり/ワンドロ

「ちわッス、冬弥来てー…」
ちりん、と軽い音を立て、彰人はセカイにあるカフェに入る。
と、いつもなら明るい声で迎えてくれる、カフェのマスターであるMEIKOがしぃ、と人差し指を口の前に立てた。
「…?」
不思議に思い、彼女の目線の先を見れば、いつもの席に座る冬弥が眠っていて。
ああ、そういうことか、と思った。
「…珍しいな、冬弥が」
「昨日の夜お父さんと色々あって眠れなかったみたい。開店前だったからソファ席使って良いって言ったんだけど」
彰人のそれに、くす、とMEIKOが笑う。
「ミクはこはねちゃんたちの所だし、リンはお使い、レンは用事って言ってたから暫くは誰も来ないと思うわ。…私も珈琲の準備してくるわね」
「おう。…わりぃな」
眉を下げて言う彰人に、MEIKOがひらりと手を振って奥に引っ込んだ。
どうやら気を遣われたらしい。
小さく息を吐き、そっと冬弥の方へ向かった。
目を瞑るだけでこうも生きているか心配になるのは何故だろう。
お人形さんみたい、と言う誰かの声を思い出し、首を振った。
手を伸ばし、冬弥の白い頬に触れる。
温もりがその手に感じられ、彰人はほっとした。
冬弥は人形なんかじゃあない。
こんなにも温かいし、内情はそれ以上に熱いのだと知っているから。
「…ん、ぅ…」
ふ、と灰青の目が開く。
涙を含ませたキラキラした瞳がぼんやりと彰人を見た。
「わりぃ、起こした」
「…あき、と」
慌てて手を引こうとすれば彼はそれに己の手を重ねる。
そして。
「…あたたかい、な」
ふやぁ、と微笑み、またすやすやと寝息を立てた。
目を見開き、彰人は暖かな息を吐き出す。
こうやって寝顔を見せるのは安心してくれるのだと信じて。 
「…おやすみ、冬弥」
小さく名を告げる。
自分の隣にいる時くらい、彼が柔らかい温もりに包まれますように、と願って。


冬の日差しが二人を、穏やかに包んだ。

(それは確かに二人が望んだ温もりのカタチ)

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