鏡音誕生日

「…レンばっかズルい」
おれに向かって唐突にブスくれるのはリンだ。
さっきまでルカ姉ぇとかカイコさんとかにお祝いしてもらってにこにこしてたのに何言ってんだ…?
「…何が」
ちなみに聞かないのも、たいっへん面倒くさいことになるので一応聞いてみる。
と、ずいっと差し出されたのはスマホだった。
…ったく、ここに何があるって…?
「あ?ゲームのおれらじゃん」
見せられたのはプロセカ、と略されるリズムゲームのそれで。
画面の中では『おめでとー!』と同じ顔のおれ達が祝われている。
「…なっんでレンはリンの記念ライブでも歌ってるのに、リンは歌ってないの?!!」
「…知らねぇよ!!!」
リンの思いの丈に怒鳴り返した。
…ったく、何かと思ったら。
「っつうかさぁ、MVあるのがそんだけしかないからだろ」
「…ハッピーシンセサイザでも良いじゃんー!」
「あれ、メイ姉ぇの記念日でも歌ってなかったか?」
「メランコリックだって歌ったし!」
「おれに言われても知らんし」
きぃっ!と怒るリンにおれはあっさりと返した。
「いいじゃん、メランコリックはリンのメイン曲だろ」
「そんなこと言ったらレンと二人がメインの曲たくさんあるもん。劣等上等とか」 
「あのMV誰だっけ、可愛い女の子がいたじゃんか」
「こはねちゃんと杏ちゃん?」
「そうそれ」
首を傾げてリボンを揺らすリンにビッと指をさす。
むくぅ、と頬を膨らせてその指を掴んできた。
「何よぅ!カイ兄ぃと歌ったからって随分余裕なんだから!」
「他所は他所、うちはうちですぅー」
「…なんかムカつく」
「痛い痛い痛いっつーの!やめろよ、指をあらん方向に曲げようとすんの!!」
声を上げると、ふいっとそっぽを向く。
ボーカロイドだって痛覚はあるんだからな?!
「あたしだってルカちゃんと歌いたかったぁ」
「だからさぁ、他所は他所、うちはうちって言ってんじゃんか」
「…はぁ?何言って…」
バタバタと足をばたつかせるリンに言ってやるとじっとりした目でおれを見た。
「…うちのルカ姉ぇならすっげぇエロい服で歌ってくれるかもしらん」
「…えっ、マジで?」
「マジで」
おれの言葉にリンがキラキラした目を向ける。
…世間の鏡音リン好きが見たら怒られそうだなーとか思ったり思わなんだり。
「リン、ちょっといってくるね!…ルカたぁあん!!」
パタパタと走っていくリンに手を振って見送る。
…ルカ姉ぇ、ごめん。
「…って」
「…こら。ルカに迷惑かけないの」
途端、手刀が振ってきておれは振り仰いだ。
そこには呆れた顔の兄さんがいて。
「…いや、走って行くリンが悪くね?」
「主犯はレンだろう?」
もー、なんて兄さんが小さく笑う。
相変わらず可愛く笑う人だなぁ、なんて思ったり。
「あ、なあなあ、プレゼントだけどさぁ、あのパジャマデカくねぇ?嬉しいけど、ボーカロイドだし成長期はないってか」
そういえば、ってさっき貰ったプレゼントについて聞いてみる。
今年はパジャマだったんだけど、明らかに成人用だったんだよなぁ。
本来の年齢はともかく、おれ、設定年齢は14歳だし。
「そう?…脱がしやすいのが良いってレンが言ったんじゃないか」
「いやまあそうだけ…ど?」
返ってきた言葉に返しながら、ん?と首を傾げる。
脱ぎやすい、じゃなくて脱がしやすい??
ハッとして兄さんの顔を見ると若干耳が赤く染まってて。
…もー、兄さんってばさぁあ!!!
思い起こされるのは数カ月前の会話。
「なあ、今年はルカ姉ぇと脱がせにくいパジャマとかあげ合いすんなよ。…ちょっと、きーてる?兄さん?!」
「えー?ふふ」
「ふふ、じゃなくて!」
返事もなく笑うばかりの兄さんが、まさかこんなプレゼント用意してるなんて、誰が思うんだよ…!
「…これ、着せるのも脱がすのもおれってことで良いの」
「さあ?どうだろうね」
クス、なんて笑う兄さんには今年も敵わない。
…多分、何度誕生日が来ても。

毎年毎年、おれは可愛くてちょっぴり小悪魔な兄さんに翻弄されるのです!!


「今ここで着てみてよ、兄さん!」
「…今は駄目」
「なんで?!おれ、誕生日なんだけど!なー、兄さぁあん!!!」

(泣き落として今度はおれが兄さんを翻弄するのは…ヒミツの話)

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