クリスマス類冬

クリスマスが過ぎてしまった。
賑わうのは当日までで、過ぎてしまえばさっさと片付けてしまうのは日本人の性なのだろうな、と類は小さく笑う。
もう世間は大晦日…ひいては新年に向けて動き出していた。
…と。
「…おや」
元ツリーを見上げる姿に見覚えがあって、類は足取り軽く近付く。
「やあ、冬弥くん。随分と名残惜しそうだね?」
「…!神代先輩」
にこ、と笑いかけると彼は驚いたようにこちらを見た。
もこもこのマフラーを首に巻いていて尚寒そうにしている。
それなのに、この寒空の下、ぼんやりと何もなくなったツリーを見上げるのには訳があるのだろうと類は笑みを浮かべた。
「どうしたんだい?こんなところで」
「…いえ。…少し寂しいな、と思いまして」
「…ふぅん?君の家にはサンタさんは来なかったのかな」
困ったようにこちらを見る冬弥にそう言った途端である。
「…けど、えーたん家にはサンタさん来たもん!」
「何を言ってるの。ブラックサンタはクリスマス過ぎた後も見てるんだから!」
聞こえてきたのは親子の声で、類はおや、と思った。
「悪い子だと連れて行かれちゃうんだから」
「…えー、山に?」
「そう、山に」
「じゃー良い子にするー!おそうじ手伝うー!…」
通り過ぎるその声は何の変哲もないが、微笑ましく、思わず肩を揺らす。
「…ブラックサンタ…」
「おや、知らないのかい?」
小さな冬弥の声に類は笑みを浮かべた。
ブラックサンタ。
どこから出てきた説かは知らないが、悪い子を袋に詰めて連れ去るのだという。 
「まあ、サンタクロースは妖精だというのもあるからねぇ。悪い妖精か…はたまた悪魔か。…ねぇ、君はどちらが良いんだい?」
「…え?」
問いかけると、冬弥は寒空と同じ色の瞳を丸くした。
「良い子にプレゼントをくれるサンタクロースか。…悪い子を連れ去ってしまうブラックサンタか」
「…。…神代先輩は、どちらですか?」
問いかける類に、冬弥は質問で返してくる。
おや、と思わずクスクス笑い、そうだねぇと空を見上げた。
「僕はよく悪魔みたいだと言われるからブラックサンタかもしれないし、君になら素敵なプレゼントをあげるサンタになりうるかもしれないよ?」
「…。結局、俺次第…ですか」
ウインクする類に冬弥は小さく呟く。
真面目なのだろう、暫く熟考した後顔を上げた。
「…俺は、プレゼントを一方的に貰うより、先輩に連れ去られたいな、と…思います」
ふわ、と冬弥が笑む。
ほんの少しだけ、悪い顔で。
「先輩が思うよりも、俺は良い子ではないです、から」
「ふふ。なるほどね?」
予想以上の答えを返してきた冬弥に類はくすくすと肩を揺らして笑う。
そんなことも言うんだなぁと、思った。
「なら僕は君のブラックサンタになろうかな。…おいで?」
手を広げて類は冬弥を誘う。
おずおずと近づいてきた冬弥をコートの中に入れて抱きしめた。
そうして契約代わりにキスをする。
…触れるだけの、簡単な…キスを。

ブラックサンタに連れ去られ、少年はイルミネーションが消えた街に溶ける。
それは雪に色を与えた待雪草のようだと、誰かが言った。

鈴の音が聞こえる。
それは一体何の音だった?

(それは、そう。

確かに幸せな音だった。

それがどんな形であったとして、ね!)

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