ワンドロ隔週/新年・旅行

カランコロン、とベルが鳴る。
コーヒーカップを拭いていた手を止め、あら、とMEIKOは笑う。
「いらっしゃい、彰人くん、冬弥くん」
「どもッス」
「こんばんは、MEIKOさん」
微笑むMEIKOの前にいるのはいつもの二人、彰人と冬弥だ。
練習の帰りだろうか、さして珍しくもない二人の来訪に、「コーヒー淹れるわ」と告げる。
「ありがとうございます。…やはりここが落ち着くな」
「だなー。こんなに遅いと謙さんも良い顔しねぇし」
「あら。今日は随分遅くまで練習だったのね」
MEIKOのそれに二人は顔を見合わせ、違う、と笑った。
その答えにきょとんとしていれば、冬弥が「少し、旅行に行ってきたんです」と言う。
「旅行!良いわね!」
「年も明けたし、学校始まったらそんな時間取れなくなるって、1日かけて行ってきたんスよ」
「日帰り旅行ね。素敵じゃない」
彰人の言葉に素直に言えば二人とも嬉しそうに笑った。
若いわねぇ、とにこにこしてしまう。
「どこに行ったの?」
「隣町の純喫茶に。後は彰人が行きたがっていたミュージックカフェにも行きました」
「冬弥が行きたがってたトコにも行ったろ。電車で1時間」
「…あれは途中で迷ったからだろう?」
首を傾げる冬弥に、彰人が「そうだけどよ」と苦笑した。
あらあら、と微笑み、MEIKOはコーヒーを淹れながら…ふと思う。
これは果たして旅行なのか?と。
だがまあ二人がそうだというならこれは旅行なのだろう。
二人で電車に乗り、迷いながら目的地に向かう…これだって立派な旅だ。
彼ら二人の、水入らずの小旅行。
その終わりに、ここを選んでくれたのが嬉しいと思う。
「写真も撮ったんです。見てもらえますか?」
「あら、良いの?」
「冬弥、意外と写真下手で…」
「…。これは良い出来だと思うのだが」
「…あー、これな。…あ、こっちのは純喫茶のやつか。パンケーキ美味かった」
「そうだな。…これは迷った末に猫喫茶に辿り着いたやつです」
「あそこは喫茶店に猫がいただけだろ。…犬じゃなくて良かったけどよ」
スマホを見せてもらいながらMEIKOは二人の楽しそうな様子にまた笑った。
思い出話はまだまだ尽きそうにない。

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