年越しザクカイ

もう少しだな、とザクロは時計を見る。
いつの間にかこたつがセッティングされていたカイコクの部屋で…本当にいつ運び込まれたのだろうか…ザクロは立ち上がりマスクを外した。
「?忍霧?」
首を傾げるカイコクの顎を掬い上げ…キスをする。
「?!ん、は…ぅ…んんぅ…!」
驚きに目を見開いていたカイコクの瞳がとろりと溶けた。
時計に目をやれば後3秒といったところで。
3,2,1とカウントダウンし、口を離す。
「…は…。…忍霧!お前さんいきなりっ、なん…!」
「明けましておめでとう、鬼ヶ崎」
「…は、ぇ?」
怒れる彼にさらりといえば、年相応な顔をしてみせた。
充分に時間を費やしたあと、カイコクは、あ、と声を出す。
「…もうそんな時間かい」
くす、と笑いカイコクも「明けましておめでとう、忍霧」と言ってくれた。
「しかしなぁ、いきなりあんな…」
「いけなかったか?」
外したそれをつけ直しながらザクロは呆れたように言うカイコクに聞く。
ぽかんとした彼が小さく息を吐いた。
「…俺が会ったばっかの時はもうちょい可愛げがあったと思ったんだがねぇ…」
「なら、こうなったのは貴様のせいだな」
「…あ?」
愚痴るカイコクにあっさりと言えば彼は眉を吊り上げさせた。
まるで文句でも言いたげである。
「何でェ。俺が何したって?」
「貴様と恋人関係になってから振り回される事が多くなった。…俺としても貴様に振り回されるのは本意ではないからな」
「…言ってくれるじゃねぇか」
カイコクが小さく笑んだ。
…この笑顔を見せる時は良い事がないとザクロは知っている。
後退るザクロに彼は可愛らしい笑みを浮かべた。
「俺だって忍霧に振り回されるのは本意じゃあねぇんだぜ?」
「…は?」
「大体なぁ、お前さんはいっつも唐突な行動ばっかしやがって。俺の心臓が保たな…」
「…いや、それを貴様が言うのか?」
むぅ、と愚痴るカイコクに思わず言ってしまう。
「はぁ?!何言ってやがる!俺を翻弄しておいて!」
「待て待て!それは俺の方だ!」
怒鳴るカイコクを静止した。
目を合わせ、ひと呼吸置き…二人して吹き出す。
「…二人とも同じことを思っていたのか」
「…らしいねェ」
可愛らしく笑うカイコクをザクロは引き寄せた。
マスク越しに触れるだけのキスをする。
「…そういうとこだぜ?忍霧」
「そうか」
ふふ、と笑むカイコクにふいと目を逸らした。
「…。…今年もよろしくな」
「…ああ、よろし…」
く、と言う前にマスクがずり下げられる。
触れるだけのそれに、そういうところだが、と言いかけ、止めた。
代わりに離れようとするカイコクを引き寄せ深いキスをする。


振り回して振り回されて。
きっと今年も変わらず、日々が過ぎていくのだろう。
変わらないやり取りは…非日常を日常足らしめる要素なのだな、と思った。

新しい年を、共に過ごせる。
それが幸せだと言うことに。


今はまだこのままを、ザクロは願った。

(日々を重ねられる幸せを、彼と共に)

name
email
url
comment