司冬ワンライ・イースター/うさぎ

本日4月4日。
今年のイースターである。

「イースターは春分の日の後の、最初の満月の次の日曜日に行われるものであり…」
「へぇ、司くん、詳しいんだねぇ…!」
司のそれにえむがきらきらした目を向けた。
なぜこんな会話になっているのか。
それは、フェニックスワンダーランドで毎年恒例、イースターフェスティバルが行われるからであった。
普段のショーにワンダーステージを使わせてもらっている、というのもあり、司たちはこうやってイースターエッグの作成を手伝っていたのである。
「イベント主催者なら知っておくべきだぞ…っと、これで良いのか?」
「うん!!!ありがとー、司くん!!」
どさりとカラフルなたまごを事務所の机に置き、確認する司に、えむがへにゃあと笑った。
そのまま、「しゅぱぱぱーって出してくるね!」と書類を持って走っていってしまったえむに、司は「先に戻るぞー」と一応声をかけ、外に出る。
あまり馴染みはないが、楽しそうなイベントだ。
客もきっと楽しんでくれるだろう…と笑みを浮かべたその時である。
「…あの」
「ん、あぁ…失礼……。…冬弥?!」
声をかけられ、邪魔をしていたかと目を向けた、その相手に司は素っ頓狂な声を上げた。
思っても見ない相手、後輩であり恋人の冬弥がまさか学校でもない、ここ、フェニックスワンダーランドにいるのも驚いたが、司が目を疑ったのはその格好で。
少し困った顔の冬弥は、何故かうさぎ耳と尻尾を着けていたのだ。
…まさか、幻覚だろうか。
疲れでも溜まっていたのかと目を擦り、じぃっと見つめる。
「…本当に、オレが知る青柳冬弥か…?」
「…司先輩がどう思っているかは分かりませんが、俺は青柳冬弥です」
訝る司にそう言うのは確かに冬弥らしかった。
では何故。
「…冬弥よ。何故うさぎなんだ?」
「…これは、その…知り合いの子に着けられまして」
「…ほう」
「思ったより似合っているとか…可愛い、とか言われたので。好きな人に直接見てもらえば、と言われて…それで」
「…なるほど、なぁ……」
冬弥の説明に司は、はぁあと大きなため息を吐く。
隣を通る人がびくっと肩を揺らした。
「あの、司先輩??」
おろおろとこちらを伺う冬弥に、なんでもない、と言い、司はぐい、とその手を引く。
「…っ?!」
「とても可愛いぞ、冬弥。だが、こんな可愛らしい姿はオレだけの前にして欲しい。襲われたらどうするんだ?」
「…俺は、そんな…」
「いいや、現にオレはお前に魅了されているんだぞ?不埒な輩に冬弥を渡すわけにはいかんからな」
「司先輩…」
きっぱりと言う司に冬弥は小さな笑みを浮かべた。
それは言うならば春の笑み。
うさぎが運んできた…春の便り。
「…先輩、これ」
「イースターエッグ?落ちていたか?」
「…いえ、俺が作りました」
渡される、星の模様が描かれたそれに首を傾げれば冬弥が小さく笑む。
柔らかく、暖かい風が二人の間を通り抜けた。
「せ、先輩…?!」 
「本当に、可愛らしいなぁ…冬弥は!」
愛おしさが込み上げ、思わず抱き締めれば冬弥が驚いた声を出す。
頭の上でうさぎの耳が微かに揺れた。


…遠い国ではうさぎがイースターエッグを運んでくるのだという。
中に幸福を詰め込んで。


さあ、今年も春がやって来た!

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