ザクカイ♀イースター

「忍霧のばかっ!大ッキライでぇ!!」
「おい、待て、鬼ヶ崎!!」
怒鳴る彼女にザクロは止めるが、カイコクは聞かなかった。
パタパタと走っていってしまう彼女に、はぁあと大きなため息を吐く。
「おやぁ、ザッくん。どうしたんだい?」
「…路々森か」
かけられた声に力なく顔を上げるとキョトンとした顔のユズがいた。
「珍しいじゃあないか。カイさんと喧嘩でもしたのかい?なーんて……」
「…」
「…図星、かにゃ?」
ケラケラ笑っていたユズが、ザクロのそれに動きを止める。
まさか当たるとは思ってなかったらしい。
「…で?原因は?」
表情を真剣なものにしたユズに、ザクロは小さく息を吐きだして口を開いた。
「…今日はイースターだろう」
「ん?あぁ、そういえばそうだったかも…。…それが?」
「…鬼ヶ崎にうさぎの格好をしてくれと言ったら怒られた」
「…。…ザッくん、キミ、存外行事ごと大好きだろう」
しょーもない喧嘩の理由に、ユズが呆れたように言う。
「まー、カイさんもそれくらい許してあげれば良いのに、とは思うけれどもねぇ」
「そうだろう?!イースターは春を祝う大事な行事だ!それを鬼ヶ崎は分かっていない!」
「…いや、まあ…急にうさぎの格好をしてくれ、なんてお願い、カイさんは嫌がると思うぜ?」
熱弁を振るうザクロにユズは呆れたように言った。
カイコクはあまり『そういうこと』は好まない。
勿論ザクロも知ってはいる…のだが。
「…分かった。謝ってこよう」
「おや。随分素直だにゃあ」
息を吐きだして歩き出したザクロにユズが笑う。
そんな彼女にザクロは「まあ」と目を細めた。
「…春が来なくなっては、困るからな」


コンコン、と割り当てられている部屋の扉を叩く。
「…鬼ヶ崎、先程はすまなかった」
「…。…本当にそう思っているかい?」
そっと扉が開き、ブスくれた彼女の顔が覗いた。
勿論だ!と熱く訴えれば先程より広く扉が開く。
「イースターはやっても良い。だがうさぎは…」
むう、と頬を膨らせるカイコクに、イースターはやってくれるのか、と思いながら、彼女の前に衣装を差し出した。
「…忍霧?」
「頼む、これを着てくれ!」
「…だから…っ」
「…わかっている。だから、中身を、見てくれないだろうか」
「…」
ザクロの真剣なそれにカイコクは息を吐き出し、衣装を開ける。
「…これ」
驚いたようにカイコクが小さく声を出した。
彼女の手に収まっているのは、黒い色をした腰まであるうさ耳パーカーだ。
「もっとえっちなのが来るかと思った」
「…俺のことをなんだと思っているんだ?」
ぽかんとするカイコクにザクロは息を吐く。
そんなザクロに彼女は小さく笑った。
「…これなら、良い」
「そうか」
許しを得たザクロはほっと安堵の息を吐き、招かれたカイコクの部屋に入っていく。
…カラフルなたまごを、隠し持って。


うさぎは豊穣の象徴。
そのうさぎが隠したたまごを探すのが…イースター。


「忍霧?」
首を傾げたカイコクの、見えないうさ耳が揺れた気がしてザクロは何も、と小さく言った。

たまごを隠された哀れなうさぎが、春の風の様に甘い声が響かせるはめになるのを…彼女はまだ知らない。

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