キスの日ザクカイ♀️

「…鬼ヶ崎、そこをどいてはくれないだろうか」
「…嫌でぇ」
おずおずと言うザクロに、カイコクは長い髪を揺らしてぷいとそっぽを向いた。
「なあ」
「…キスするまで通さねぇ」
はぁ、とため息を吐き、ザクロの部屋の前を陣取る彼女を見つめる。
カイコクに、今日はキスの日だ、と言ったのは誰だったろうか。
彼女だって普段はそんな積極的でもないくせに、と思うが口には出さず飲み込んだ。
煽りこそすれ、意外と初心なのだ、カイコクは。
…それにしたって。
「退いてくれないと部屋に入れないのだが」
「…態とそうしてんだが?」
「…。…理由を聞いても?」
「むっつりスケベ超鈍感」
「待て今むっつりスケベ関係あったか?!」
ムスッとした顔のカイコクに思わず声を荒げた。
否定はしないが今それを言われるのは心外である。
「…キスの日なんて下らねぇって言った癖に」
「?ああ、確かに言ったな。だが貴様だってそう…。…え?」
ブスくれていた彼女のお面の下、揺れる赤紐の先にある耳朶がほんのり染まっていて。
…それは、まさかとは思うのだが。
「鬼ヶ崎、もしかして」
「っ!!」
バッとカイコクが顔を上げる。
確かにザクロはその話を聞いて「また下らないことを」と言った。
だがそれはカイコクが「語呂合わせでもねぇのに。下らないねぇ」と笑ったからで。
だからまさかそれを否定してほしいだなんて思わなかった。
否定して、キスをしてほしかったなんて。
「俺は語呂合わせなどでキスをしたいとは思わないんだが…まあ良いだろう」
「…忍ぎ…んんぅ?!!」
マスクをずらし、望みどおりキスをする。
深く、優しいキスを。
「ふぁ、あ…?んっ」
「続きは部屋だ。貴様が望んだ、キスの日、だろう?…逃げるなよ、鬼ヶ崎」
とろりとするカイコクを引き寄せ、ザクロは部屋を開けた。


だってこれは彼女が望んだことだから。

…さあ、キスをしよう。

愛しいカイコクの仰せのままに。 


(今からここはキスをしないと出られない部屋!)

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