司冬ワンライ・○○ごっこ/抱きしめる

「大丈夫か?苦しくないか?」
「…はい、大丈夫です」
冬弥を抱きしめながら司はそれを着ける。
彼の香りを鼻孔に感じながら耳に囁やけば、ふわりと笑った。
「ふふ、近いです。司先輩」
「む。普段のほうが近いだろうに」
「…それは…そうですけど」
服を着ている分距離がある、とむくれれば冬弥は困ったように笑む。
へにょりと垂れ下がった眉と僅かに上がった口角のそれはなんだかんだよく見る表情だ。
嗚呼、そんな顔もこれからはもっと近くなるのだなぁ、と思う。
何せ。
今日は大事な儀式の真っ最中、なのだ。
小さな頃に行ったごっこ遊びとはまた違う。
これは正式な意味を持ったそれだった。
祝客も、司祭もいないけれど。
…それでも司も、冬弥も幸せだったのだ。
ふと、冬弥が肩を揺らす。
どうした?と聞けば彼は灰鼠色の瞳をゆるりと細めた。
「いえ、前にも同じようなことをしたな、と」
「…ああ、あったな」
冬弥の言葉に司は思い返す。
それは少し前の記憶だった。
「俺が転んだ後、先輩が結婚しようって言ってくれて。倉庫で白いカーテンを探したんですよね」
「そうそう!あの後母さんに怒られてしまったな!まあその後もしょっちゅう冬弥を嫁にしようとしていたんだが」
冬弥を抱きしめながら司は言う。
一番最初、古いレースカーテンをヴェールに儀式をしようとしていた司は母親に見つかり「貴方はまだ未成年なのよ!」と怒られてしまったのだ。
その後も懲りずにプロポーズしていたのは…一応バレていないとは思っているのだけれど。
「まあそれも今日で終わりだな」
少し離れて司は笑う。
首に着けたそれが光った。
「…チョーカーって言うんですよね、これ」
「ああ。指輪だと万が一失くしても困るだろう?これなら絶対に失くさないからな!」
「…俺は、先輩がくれるものは失くしたりしませんよ」
愛おしげにチョーカーを撫でる冬弥の目元にキスを落とす。
「勿論知っているぞ?…冬弥がこんな儀式をしなくとも傍にいてくれることも…な」
囁き、司はまた冬弥を抱きしめた。
とくとくと伝わる鼓動の音。
レースカーテンのヴェールがほんの少しだけ揺れた。
冬弥が、こんなコトをしなくても傍にいてくれるのは知っている。
でも、それでも司はそれを望んだのだ。

さあ誓いましょう。

病めるときも健やかなるときも
あなたと共に生きることを

小さな小屋で、愛しいあなたと二人きり。


それは、夢にまで見たオレとお前の




監禁ごっこ

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