プロポーズの日

「…好きだ!…いや、違うな……俺は好きなんだが貴様はどうだ……これも違う…」
「…何やってんでぇ、忍霧」
ブツブツと呟いていたザクロに声をかけたのはカイコクだった。
彼女のさらりとした長い髪が揺れる。
「…!鬼ヶ崎?!…今の、聞いて…?」
「いや。壁に向かって何か言ってんな、とは思ったけど…?」
「…そうか、良かった」
ビクッとしたザクロにカイコクが不思議そうに言った。
その答えを聞いてほっとする。
「んで?何やってたんでぇ」
「…。…なあ、鬼ヶ崎。今日が何の日か知っているか?」
「ん?今日?」
質問を質問で返すザクロに、カイコクは素直に考えだした。
今日はとことん付き合ってくれる気らしい。
…普段はムッとするのに。
「6月6日…んん??」
「日付は関係なく、第一日曜日、というのがミソらしい」
「…父の日…かい?」
「…あれは第3日曜じゃなかったか?」
カイコクの答えに、ザクロは首を傾げる。
あ、そうか、という表情の彼女の手を引いた。
「…?忍霧?」
「今日はプロポーズの日、だ」
少し驚くカイコクに、フッと笑いながら言うザクロに、彼女は綺麗な瞳が零れそうなくらい見開く。
「それで、その練習を?」
「そうだ。いざプロポーズをする時にまごついたら格好悪いだろう」
カイコクの問いにあっさり言えば、彼女はふは、と笑った。
「おまえさんにもプロポーズをしたい相手がいたんだねぇ…」
可愛らしく笑う彼女に、ザクロは首を傾げる。
「何を言う。俺がプロポーズしたいのは鬼ヶ崎以外にいるわけないだろう」
「…へ、ぇ…?」
「好きだ、鬼ヶ崎。俺と結婚してほしい」
ぽかんとするカイコクの手を握った。
「…ストレートで来やがって」
「貴様には回りくどいよりその方が効くだろう?…それで?」
口元を抑える彼女に笑いかける。
返事は、と急かすザクロに、カイコクは、馬鹿、と小さく言った。


貴女に毎年ストレートな愛の言葉を。

さて、返事はいつまで待ってやろうか?

(純情少年からのプロポーズからは逃げられない!!)

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