類冬ワンドロ・結婚式/かみきり

彼がいると、日常が特別なものになる


「…神代先輩」
綺麗な声に呼びかけられ、類は振り向く。
相手の姿を認め、ふわりと微笑んだ。
「おや、青柳くんじゃないか。どうしたんだい?」
「先輩に受け取ってもらいたいものがあって来ました」
「…僕に?」
いつもと同じ様子で言う冬弥に、類は首を傾げる。
彼からのプレゼントなんて珍しい。
「ふふっ、嬉しいよ。何を…」
笑顔を向けようとした類ははたと止まった。
差し出されていたのは1枚の紙切れで。
「…これは?」
思わず喜びよりも戸惑いのほうが勝ってしまった。
尋ねる類に冬弥が曖昧な笑みで答える。
「…婚姻届けです」
「…ん???」
少し困ったようなそれが可愛いなぁと見ていた類は一瞬反応が遅れてしまった。
「…婚姻届け、と言ったかな」
「はい。流石に自作ですが」
「…。…何故今日渡そうと?」
「…先輩のお誕生日は6月24日なんですよね。俺の誕生日は5月26日です。…それで、その間の日はハーフバースデーと呼ぶそうです」
「?うん、そうだねぇ…?」
要領を得ない冬弥のそれに首を傾げる。
それが一体この婚姻届けとなんの関係があるのだろうか。 
すると彼も何かおかしいと思ったのだろう…元々頭は良い方だ…差し出した紙を引っ込めようとする。
「…ハーフバースデーに婚姻届けを作成すれば、2人は末永く幸せになれると聞いた…のですが」
「…。…誰から聞いたかは聞かないでおくよ。…それで、君は僕と幸せになりたい、と?」
引っ込めようとするその手を握り、類はにこりと笑った。
「…」
冬弥はほんの少し逡巡した後こくりと頷く。
まったく彼は可愛いのだから!
「こんな1枚の紙切りで幸せを確約出来るとは思わないけれどねぇ…」
「…う…」
ふぅん、とそれを見ながら類は言う。
自作という婚姻届けの、妻の欄には彼の名前があった。
それを見ていると確かに口角は自然と上がる。
なるほど、人はこれを幸せと呼ぶのだろう。
けれど。
「僕なら、紙なんか必要ないくらい、君を幸せにしてみせるよ」
「…え?」
「どうだろう、僕に青柳くんの人生を任せてもらえないだろうか」
目を見開く彼の前に類は跪く。
王子様みたいですね、とふわりと笑った彼がその手を取った。

さあ、二人で結婚式をしよう。
見たこともない幸福を。
こんな紙切りではない、幸せを…君に!

name
email
url
comment