司冬ワンライ・相合傘/雨宿り

雨、雨雨、梅雨の季節。

「げっ…降ってきてしまったか…」
学校から出ようとした瞬間、ぽつぽつと水滴が体に当たり、思わずしかめ面をしてしまった。
天気予報では曇りのはずだったのに、と息を吐く。
まあ天気予報士に文句を言っても仕方がない、と一応持ってきていた折りたたみ傘を開いた。
歩を進める度に水滴の量が増え、雨に変わる。
今日はバンド練習で妹である咲希にも持たせていて正解だった、と思っていた…その時。
「…む?」
この雨の中、傘も刺さずに走る人物を見かけて司は一瞬止まった。
律儀に予報を信じてしまったらしいその人は司もよく知る人で。
「冬弥?!」
「っ、司せんぱ…?!」
「何をやっている!風邪を引いたらどうするんだ!」
綺麗な髪を雨に濡らし、驚いたようにこちらを見る冬弥を傘の中に引っ張りこむ。
「…すみません」
「降り出した時点で雨宿りすれば良かったものを。…この後、予定は?」
「…え?」
しゅんとする冬弥にタオルを渡しながら司は聞く。
きょとん、とする冬弥に、「可愛い恋人を濡れて帰らせるわけにも行かないだろう」と言った。
「…で、でも、ご迷惑では」
「迷惑なものか。今日は咲希もいない。両親も仕事だ。…好きに雨宿りしていくと良いぞ?」
「…ありがとう、ございます」
くしゃりと濡れた髪を撫でてやれば冬弥は柔らかく笑う。
年相応で可愛らしいな、と、そう思った。
「それに、雨の日デートも悪くない、そう思わないか?」
「そう、ですね」
司のそれに冬弥が微笑む、まるでハイドライジアのように。
「…?司、先輩?」
首を傾げる冬弥の髪からぽたりと雫が落ちた。
濡れた服が肌に張り付いていて艶めかしい。
「…。…冬弥。もっとオレにくっついていいんだぞ?濡れてしまうからな!」
「いえ、でも、あの」
「気にするな!…オレが冬弥と相合傘をしたいのだからな」
そう言いながら、なるべく近くに寄せ、冬弥を誰の目にも触れさせないようにした。
冬弥のこの姿は誰にも……そう、今降り注ぐ雨にだって。
彼は可愛い、司の恋人なのだから!!

(落ちる雨粒にだって、見せてやりはしないさ)



「あの、先輩。俺持ちましょうか?」
「気にするな、冬弥!!傘くらい、華麗に持ってみせるぞ!!なにせオレはスターであり!冬弥の恋人なのだからな!」

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