ワンドロ/お祭り・浴衣

「…」
「わりぃ、待たせた。…冬弥?」
バイト終わり、ぼんやりとする冬弥に駆け寄り、彰人は声をかける。
「…おい、冬弥!」
「…え?…ああ。バイト終わったのか」
「まーな。んで?どうしたんだよ」
ハッとしたような冬弥に、眉を潜めれば彼は別に、と小さく笑ってみせた。
だが、そうやって笑うときは大抵何かあることを彰人は知っている。
「何かなきゃんな顔はしないだろ」
「…。…そ、れは…」
「で?何があった」
言葉を詰まらせる冬弥に彰人は再度聞いた。
父親との確執は以前より穏やかになったものの、完全に関係が修復したわけではない。
何か音楽に関して言われたのかと…思ったのだけれど。
「…この前、夏祭りに行っただろう」
「あ?ああ、行ったな、そーいや」
唐突に言われたそれを思い出し、彰人は頷いた。
古い友人にイベントに出てくれと頼まれたのだが、その会場が夏祭りだったのだ。
お陰でライブ終わりに祭りを楽しんだのだが…それがどうかしたのだろうか。
「さっき、駅に向かう人たちが浴衣を着ていて…良いな、と思った」
「…は」
「俺も彰人もあの時は普通の服だったから…その、浴衣というのも特別感があるな、と…」
ぽわ、としながら言う冬弥に、そんなこと、と彰人は思わず笑ってしまう。
文化祭のときも思ったが…冬弥はお祭りというのを存外楽しむタイプらしい。
幼い頃行かせてもらえなかった反動、だろうか。
「…来年は着て行けば良いんじゃねぇの?」
「…え」
そうやって言ってやれば冬弥はキョトンとした。
不思議そうなそれに、「だーから」と笑ってやる。
「祭りは来年もあるだろ。この街のじゃなきゃ他にもあるしな」
「…彰人」
「まだやってる祭りを探して、浴衣着て行ってもいいしよ。流石に着付けみたいなのは出来ねぇけど…男の浴衣なんて合わせを間違えなきゃどうにかなんだろ」
「…一緒に行ってくれるのか」
首を傾げる冬弥に、当たり前だろ、と彰人は笑った。
「可愛い恋人のお誘いを無下に出来るわけないだろ、オレが」
「…彰人」
ふわ、と笑う冬弥の手を取る。
行こうぜ、と白いそれを引っ張った。


行こう、今度は2人きりのお祭りに。


冬弥には何色の浴衣が似合うだろうか、と彰人は考え始めた。



「…なぁ、浴衣ってエロく見えねぇ?」
「…。…彰人…?」

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