類冬ワンドロ/遠足・虫刺され

「えっ、その話本当かい?!」
びっくりする類に、冬弥はきょとんとしながらも、はい、と頷いた。
「…まさか遠足に一度も行ったことがないなんて、ねぇ…」
「ずっと幼少期からピアノやバイオリンで忙しくて」
「その話は前に司くんからも聞いていたけれど。でも、触れない日が出来てしまう修学旅行なんかとは違って1日だけの運動会や遠足もだろう?」
尋ねる類に、冬弥は困ったように笑む。
「運動系は、手を怪我してはいけない、という理由だと思います。遠足も同じ理由かと」
「…なるほど。まあ転ぶ可能性もあるからねぇ」
ふむ、と頷き、冬弥のきれいな手を取った。
そうやって守られてきたのは有り難いことだな、とそれだけは感謝する。
「…いつか、遠足にも行ってみたいです」
「遠足、か。秋の山にお弁当を持って行くのは良いかもしれないね」
「神代先輩は、山は得意なんですよね。草薙や暁山が言ってました」
にこりと笑う類に、冬弥がキラキラした目を向けてきた。
この純粋な目には敵わない。
「別に得意なわけではないけれど…。もう少し涼しくなったら行ってみようか」
「…!はい、是非」
嬉しそうな冬弥に類はくすくすと笑った。
純粋無垢な性格も、ピアノやバイオリンばかりやらされてきた故、だろうか。
「夏の山はあまり、なんですか?」
「まあね。夏は虫が多いから…。青柳くん、虫に刺されたら赤くなるタイプだろう?」
「…あ…確かにそうかもしれません」
首を傾げる冬弥に類は言う。
こくりと頷いた彼に類は笑いかけた。
「対策をしていってもどうしたって刺されてしまうからね。あとは、山に登るのは結構な重労働だったりするから、熱中症の危険性がある時に行くのはあまり良くないかな」
「なるほど。勉強になります」
真剣な顔で頷いた冬弥の手を引く。
わ、と小さな声を上げる冬弥が己の胸に飛び込んできた。
「…あの、神代先輩…?んっ」
「それに、虫とはいえ、君の肌を許したくないからね」
ちゅ、と白い首筋に吸い付く。
くっきりと浮かぶ紅い痕に類は口角を上げたのだった。

それからしばらく類が冬弥に口を聞いてもらえなくなる未来の訪れまで…あと数分。

「わっ、青柳くんどうしたの?首のところ、すごく紅くなってるけど…」
「…っ!少し、悪い虫がな…」
「(神代先輩…かな~…)」
「(神代センパイ、だな)」

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