類冬ワンドロ/時計・パソコン

カタカタとキーボードを叩く音が静かな図書室に響く。
久しぶりに図書室に行った類はパソコンの前に座り、読みたかった本を調べていた。
その本はすぐに見つかったのだが、同じ作者の本や、似た内容の本が見つかりすっかり夢中になってしまったのである。
芋づる式に出てくるのも時に良くないな、と類はホーム画面に戻った。
お陰でふと時計を見た類はすっかり遅くなってしまったことにその時初めて気付いたのだ。
それにしたって図書委員は誰も声をかけてくれなかったな、と類は貸出する本と予約表を持ち、立ち上がる。
カウンターの奥にいる人物に声をかけようとし…やめた。
代わりにスマホの写真機能をタップし、そっと写し撮る。
壁に寄りかかり、すぅすぅと寝息を立てていたのは青柳冬弥、その人であった。
眺めていたい気もするが反対側に置かれた大きな柱時計はそろそろ18時を回ってしまう。
時計が大きな音を立てる前に起こしてやらなければ。
「青柳くん、青柳くん」
「…ぅ…せ、んぱ…?」
「おはよう、青柳くん。待たせてすまなかったね」
「…いえ」
ゆわりと目を開けた冬弥はまだ夢見心地なようで柔らかく笑んだ。
「しかし、遅くなってしまったが…家の方は大丈夫なのかい?」
「いつもライブなどではもっと遅くなるので…」
それと、と冬弥が言う。
「あの柱時計は少し時間が早いんです。実際は…。…」
本来の時間を教えてくれるつもりだったのだろう冬弥が口を噤んだ。
はて、どうしたのだろう。
「?青柳くん?」
「えっ、あっ、すみません」
「一体何を…」
画面を覗き込もうとして、類は目を丸くした。
一瞬見えたそれは。
「…見ましたか?」
「ふふ、それはもう」
少しバツが悪そうな冬弥に類はニッコリ笑う。
「盗撮なんて君も悪いねぇ」
「…う…」
類のそれに彼は言葉を詰まらせて目を逸らした。
つい出来心で、というやつだろうか。
「なぁに、消せ、なんて意地悪は言わないよ。ただ、なぜこの写真を撮ったのかは聞かせてもらいたいね」
「…」
ね、と優しく笑えば冬弥もほっとした表情をする。
そっと口元を隠すスマホには類がパソコンをしている様子が映し出されて、いた。


(その顔に、少し複雑になってみたりして)


「…先輩がいつもと違う表情で…格好良いな、と…思ったんです」

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