ナナミ誕

「ねえ、鬼ヶ崎クン」
「?なんでェ」
相変わらず情報交換を済ませた後、ナナミが帰り間際にそうだ、と振り向いた。
きょとん、とした彼が小さく首を傾げる。
「アタシ、今日誕生日なのよ」
ウインクして言ってみればカイコクはまだ不思議そうな顔をしていた。
「…カレンダーもねぇのに、よく分かったな…?」
「あら、大体は分かるわ。ヒロやサクラが来た時から計算したりして」
「…ああ、なるほど?」
ふわりと髪を揺らす彼にそう言えば納得したように笑う。
「そりゃあ…おめっとさん」
「ふふ、ありがとう」
柔らかく笑うカイコクに、ナナミも笑みを浮かべて礼を言った。
彼はそういう所は素直なのである。
この、優しい笑みと声をする彼が好きだなと、思った。
「それじゃあ、またね」
「…?そんだけ、かい?」
ひら、と手を振るナナミにカイコクはまた小さく首を傾げる。
今度はナナミもきょとんと目を瞬かせた。
「…?他に何かあるの?」
「いや。…兄さんは欲がないねぇ」
小さく笑ったカイコクはなんだか無邪気に見える。
どこかイタズラっ子のようで、ナナミも笑ってみせた。
「まあ、欲を見せても良いの?」
「さあ?どうだかな」
笑うカイコクは猫のように逃げてしまう。
煽っておいて、それはないと思うのだけれど。
「…?」
と、小さなカードを見つけた。
確かに前に来た時にはなかったから…今カイコクが落としたのだろうか。
呼びかけようとして中を見たナナミは目を丸くした。
それから、あらあら、と表情を緩める。
カードには『鬼ヶ崎カイコク使用券』と綺麗な字で書いてあって。
「使用券、なんて色気がないんだから、鬼ヶ崎クンも」
小さく笑ってナナミはカードにそっと口づけた。
素直じゃない彼からの、素直ではない誕生日プレゼント。
存外律儀な彼に笑い、さてこのカードはいつ使おうかと考え始めた。


(愛しい彼がくれたものだもの、大事に取っておきたいココロもあるのよ?)

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