司冬ワンライ・○○館(○○園)/初デート

その日、天馬司は緊張していた。
緊張などまったくしないタイプで、それこそワンダーステージのオーディションですらワクワクさえすれど、緊張はしなかった…のに。
「お兄ちゃーん?遅刻しちゃうよー?」
「わ、分かっている!」
妹である咲希の声に司は返す。
その時間は刻一刻と迫っていた。



さて、少し前に時は戻る。
その日、珍しく(と、本人が言っていた)学校に来ていた瑞希と廊下で会い、話していた時だ。
「ええっ?!司先輩、冬弥くんとデートしたことないの?!」
「そうだが…そんなに驚くことか?」
素っ頓狂な声を上げる瑞希に司は首を傾げる。
後輩である冬弥とは幼馴染で恋人だが、デートらしいデートには行ったことがなかったのだ。
たまに買い物に付き合ってもらったり付き合ったり、図書館に行くという冬弥に着いていったり、逆に冬弥がフェニックスワンダーランドに来たりはするが…約束をして、どこかに行くことは今までしてこなかったのである。
「いや別に司先輩たちが良いなら良いよ?でもなんかさぁ、寂しくない?」
「ほう、寂しい、とは?」
「んー、ボクも上手くは言えないけど…せっかくなら、恋人らしいこと?が出来るんだし、特別感を味わってもいいんじゃないかなーって」
「…なるほどな」
瑞希のそれに司は考え込んだ。
確かに、瑞希の言うとおりかもしれない。
よし、と呟き瑞希に礼を言うと司は駆け出す。
廊下は走るな!という教師の声が届くが気にしてはいられなかった。
「冬弥!!!!」
「?!司先輩…?!」
1年の教室には帰る寸前の冬弥がいて(ちなみに、嫌そうな顔の彰人と寧々もいた)司はホッとする。
「どうか、されましたか」
「いや…あのな」
心配そうな冬弥の手をぎゅっと握った。
そうして。
「週末、オレとデートしてくれ、冬弥!!」


司の公開プロポーズに嫌な顔を深めたのは彰人と寧々だけで、冬弥は、はい、と頷いてくれた。
だが、その日は用事があるらしく、その次の週になったのである。
…それが、今日、だ。
2人ともあまり行かない場所、ということで水族館に行く事になったのだが…約束をし、待ち合わせをして会うのは初めてで緊張してしまっていた。
「…いかんいかん!オレは冬弥の恋人…しっかりせねば…!」
「…司先輩?あの、お待たせしました」
ふわ、とした声がして司は振り向く。
そこには私服の冬弥が、いた。
「おお、冬弥!オレは待っていないぞ!」
焦った様子の冬弥に安心させるような笑みを浮かべる。
ホッとする冬弥の手を繋いだ。
「…先輩?」
「せっかくのデートだからな。いけないか?」
「…いえ、あの…嬉しいです」
柔らかく笑う冬弥に、司も釣られて笑った。
「そういえば…何故水族館だったんだ?」
チケットを買い、水槽のトンネルを潜りながら司は聞く。
今回のデート場所は冬弥のリクエストだったのだ。
「俺自身が行ったことがなかったのと…先輩と一緒に行ったら楽しいと思ったんです」
はにかんで言う冬弥が、キラキラした水槽の水に反射する。
デートに誘ってよかったな、と心からそう思った。


薄暗い室内と水面に反射するキラキラした、冬弥の表情が

ここにいる魚より何より美しいと…そう、感じた。



「冬弥!揃いのキーホルダーだ!一緒に買わないか?」
「…!良いんですか…?!」

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