類冬ワンドロ・絵本/動物

「…読み聞かせ?」
尋ねる類に冬弥はこくりと頷く。
それは数分前のこと。
図書室から何やら声がして…元々用事があったから良いのだけれど…室内を覗き混んだ類は冬弥が絵本を読んでいるのに驚いた。
誰か他にいるのかと思えばスマホがぽつんと置かれているだけで。
何かの事情があるんだろうと立ち去ろうとするより早く、「神代先輩!」と声をかけられてしまったのだ。
「…やあ、青柳くん。どうしたのかな?」
「いえ。先輩の姿が見えたので…。図書室に用事では?」
「図書室に、というよりは君に、かな」
「…え?」
きょとん、とする冬弥に、類は小さく笑う。
彼の頭にぽん、と手を置いて笑みを浮かべた。
「一緒に帰ろうと思ってね」
「…!…はい」
目を見開いた後、はにかむ冬弥に、類も嬉しくなる。
「先輩、少しお時間良いですか?」
「うん?どうしたんだい」
「実は、今度図書委員の活動で、地域の児童館に行って読み聞かせをする事になったんです。子どもたちにもっと本に触れてほしいって狙いなんですけど」
「…なるほど。だから練習を?」
「…聞かれていたんですね。自分で録音したりしてみたんですが、うまく読めているか分からなくて。良ければ、ショーキャストである先輩にも聞いていただきたいんです」
少し困ったように言う冬弥に類は二つ返事で了承した。
ありがとう御座います、と冬弥が笑む。
図書室に戻り、カウンター傍の椅子に腰掛けた。
冬弥が取り出してきたのは1冊の絵本。
表紙にはネズミが椅子に座っている様子が描かれていた。
「…これは?」
「どうやら、今の小学1年生の教科書に一部だけ載っている話らしいんです。少しでも内容を知っている方が取っ付きやすいかと」
「なるほど。良いチョイスだね」
褒める類に、ありがとうございます、と冬弥が笑む。
では、と読み出した冬弥の声が図書室に柔らかく響いた。
「…トントントン、と床を叩きます。新しく出来た友だちに向けて」
「…うん。良い読み方だったよ。テンポも良い。ただ、本を捲る時に腕で隠れてしまわないようにね」
「…!なるほど、気が付きませんでした。ありがとうございます」
類の指摘に冬弥は素直に頷く。
「…この、新しく出来たもぐらの友だち…俺に似ているな、と思ったんです」
「?青柳くんに?」
「はい。音を通じて知り合いになるところとか…あまり外に出ないところとか」
「ふむ。なら、僕はねずみかな」
曖昧な笑みの冬弥に、類は微笑み、コンコン、と壁をノックした。
「僕は、君のために入り口を作るし、おやすみのサインも贈ろう。どうだい?」
「…嬉しいです、とても」
類のそれに冬弥はふわりと笑う。
裏表紙にある、動物たち…手をつなぐねずみともぐらのように類は冬弥の手を取った。


君のためならなんだってしようじゃないか。

尤も、僕らは友人という関係ではないけれどね!!

name
email
url
comment