司冬ワンライ・ヘアアレンジ/照れる

「お兄ちゃーん!見てみてー!!」
「咲希、どうしたんだ?」
楽しそうにスマホ片手に駆け寄ってきた妹をふり仰ぐ。
じゃあん!と見せてきたのは、見知った人物であった。
「…こ、れは」
だが、スマホに収まる『彼』は見た事のない姿で。
思わず固まってしまう。
「小さい頃から思ってたけど、美人さんだよねぇ、とーやくん」
可愛らしい笑顔の咲希に、そうだな、と返すのが精一杯だ。
「ところで、この画像はどうしたんだ?」
「あぁ、これ?こはねちゃんがくれたんだぁ」
「…こはね?聞いたことある名だな…」
「臨海学校で同じ班だったんだけどね、えむちゃんが、こはねちゃんはワンダーランズ×ショウタイムのファン1号ちゃんなんだよって紹介してくれたの!今はとーやくんと、他の大切な仲間合わせて4人で歌ってるんだって」
「あぁ!あの娘か!!」
咲希のそれに、司はやっと思い出す。
どうやらその、こはね、が画像を送ってくれたようだ。
イベントの衣装合わせてる時に髪型も変えてみたんだって!と楽しそうな咲希の言う通り、小さな画面の中にいる冬弥はオールバックだ。
いつもより少し大人びて見える。
いや、というよりも…。
「ねーねー、お兄ちゃん!」
「っ、どうした、咲希!」
若干邪な考えが過ぎっていた所に声をかけられ、司は思わずビクッとしてしまった。
取り繕う司には気付かぬ様子で咲希が櫛を取り出す。
「…お兄ちゃんも、ヘアアレンジ…してみない?!」



それから暫く、エクステやらなにやら付けられ、ヘアモデルになっていた司はようやっと解放され、息を吐いた。
妹が楽しいのなら、司は構わないが…舞台でもあまり見ない自分に少し違和感を覚えてしまったのである。
…と。
「…ん?客か?」
家のインターホンが鳴り、司は首を傾げた。
はい、と玄関に向かう。
「はい、どちら…冬弥?」
「…?!司、先輩?!!」
ガチャリ、とドアを開けた先にいたのはなんと冬弥であった。
流石にオールバックではなかったが…また何故。
「どうした?何かあったのか?」
「…実は、咲希さんに呼ばれて…」
「?咲希に?」
珍しくしどろもどろな冬弥に司は疑問符を浮かべる。
咲希はバイトがあるから、と出ていったばかりだ。
人を呼んだのを忘れる彼女ではないはずだけれど。
「…咲希さんが、良いものが見られるから家においで、と」
「え?あ、あー…」
その言葉に思わず苦笑いを浮かべた。
なるほど、どうやら踊らされたらしい。
「…どうだ?」
「えっ」
彼の手を引き、司は笑いかけた。
格好良いだろう?と囁やけば彼は頬を少し染め、こくりと頷く。 
「いつもと違うので、その…照れますね」
「…っ!」
はにかむ彼に、今度はこちらが照れてしまった。
言葉にされるとむず痒いものがある。
「なら、目に焼き付けてくれ。…照れなくなるまで、な」
「…はい」
笑い、冬弥を引き寄せてドアを閉めた。
その先、司の部屋で…「先輩のそのヘアアレンジは照れるから禁止です」と小さな声で宣言される未来まで…そう、遠くはない。


「オレも、冬弥のヘアアレンジをこの目で見てみたかったな」
「…あれは少し恥ずかしいのでやらない予定でしたが…先輩なら、見せても良いですよ?」

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