ワンドロ/食欲・手料理

秋。
食欲深まる季節。


珍しく彰人の部屋で次のセットリストを考えていた時の事だった。
目の前の相棒から、くぅ、と音が聞こえ、彰人は目を見開く。
「…お前」
「…。…すまない。昼食を食べそびれて…」
小さな声で言う冬弥に、彰人は首を傾げた。
確かに昼食の時刻は過ぎている。
だが、父親との確執が解けた冬弥が、以前のように食事を取りそこねることなんてないと思っていたのに。
「なんか食ってから来りゃ良かっただろ」
「…彰人との話し合いが…楽しみで…。…色々考えていたら時間が迫っていたんだ」
「…。…お前なぁ……」
冬弥の言い訳に彰人はため息を吐く。
全く、彼は可愛いのだから!
「…来いよ」
「え?」
立ち上がる彰人に冬弥が首を傾げた。
そんな彼にニッと笑う。
「なんか作ってやるよ」



じゅう、と野菜や肉が焼く音が部屋に響いた。
その横で湯を沸かし、麺を茹でる。
彰人が選んだのはインスタントラーメンだった。
簡単で美味しい、というのもある。
「ホイ、出来た」
「…美味しそうだな」
トン、と冬弥の前に丼を置くと、彼の目がキラキラと輝いた。
自分の分も置き、座る。
「いただきます」
行儀良く手を合わせ、冬弥が箸を取った。
髪を耳にかけ、ちゅる、と麺を啜る。
「…どうだ?」
「…美味しい」
ほわ、とその表情が緩み、彰人も、そうか、と満足そうに頷いた。

食欲の秋。
2人で食べる手作りラーメンの味は。
また、格別!



「ただい…あー、ラーメン良いなぁ」
「…お前のはねぇよ」 
「ちょっと、まだ何も言ってないでしょぉ?!…冬弥くん、気をつけてね?彰人、冬弥くんのことラーメンみたいに食べちゃうかもだから」
「…え?」
「絵名、てめぇっ!!!」

name
email
url
comment