ミニスカートの日

「なぁ、カイさん」
「…んー、なんでェ」
新聞を読むカイコクを、ひょいとユズが覗き込む。
「カイさんは、着るならミニスカートとロングスカートどっちが良い?」
「…着るなら、まあ…ミニかねェ…スリットが入ってるなら別だが」
「じゃあタイトかフレアだったら?」
「…フレアじゃねぇかい?動きやすいし」
新聞を読みつつも割と真面目に答えてくれる彼女に、ユズは存外律儀だなぁと笑った。
まあそこがカイコクの良い所なのだろうけど。
「カイさんはミニのフレアね…了解」
「…って、ちょっと待ちねェ、路々さん。そりゃあどういう…」
ユズの言葉に疑問が出たのだろう、新聞から顔を上げるカイコクに、ユズはある包みを差し出した。
「…嵌めたな?」
「やだなぁ、戦略が上手いって言ってくれないと♡」
じっとりと睨むカイコクに、にゃは、と明るく笑う。
「いいじゃないか、ザッくんでも誘惑しに行きたまえよ」
「誘惑、ねぇ」
ユズのそれに、彼女は上を向いた。
だが、すぐに首を振る。
「…いや、諸刃の剣になりかねねぇ」
「そこを上手くやるのがカイさんだろ?」
ほら、と包みを押し付けた。
渋々、といった様子で受け取り、カイコクはそれをひっくり返す。
ひらり、と出てきたのは赤いチェックのミニスカート。
「…なぁ、流石にこりゃあ…」
「着てみなきゃわからないじゃないか!な、カリリン、ひーみん!」
にっこにことユズが言う。
え、と目を見開くカイコクを少女が2人、取り囲んでいた。
いつの間に、と言うカイコクに、カリンとヒミコが可愛らしく笑む。
「私達が可愛くしてあげますから」
「頑張りますねっ、鬼ヶ崎さん!」
無邪気な2人にカイコクが助けを求める目をした。
だが勿論それを助ける人はいない。
彼女は大人しくモルモットに成り下がるしかなかったのだった。



「あ、おーい、ザッくん!」
ユズに呼びかけられ、ザクロは少し嫌そうな顔をする。
彼女が上機嫌な時は大抵嫌な予感しかしなかった。
「…。…何か用か、路々森」
「つれないにゃあ!ザッくんは、今日は何の日か知っているかと思ってさ」
警戒するザクロにユズが軽く笑う。
彼女の急なそれにザクロは目を丸くした。
「今日…?何か特別な日だったか?」
「勿論。毎日が何かの記念日なんだぜ?」
にこにこと笑うユズに、それもそうか、なんて思いながら、ザクロは考え始める。
ハロウィンはもっと先だし…そういえば十三夜が今日だったような。
「ちなみに十三夜は今日だが、そっちじゃないぜ」
「む」
先を越され、ザクロは口を噤む。
考えたところでさっぱり分からなかった。
「分からないザッくんに、ヒントをあげようー!」
ザクロの様子にユズがにまりと笑ってドアを開く。
そこに、居たのは。
「は、え、忍霧?!」
「?!鬼ヶ崎、貴様、なんでっ、そん、ハレンチな!」
「は、はぁ?!ミニスカのどこがハレンチなんでぇ!!」
売り言葉に買い言葉、目を逸らしながら真っ赤になるザクロに、カイコクが声を荒げフレアスカートを閃かせながらズカズカとやってくる。
短いチェックのフレアスカートに、可愛らしいシャツ、という普段とは違う格好が恥ずかしいのだろう、彼女は珍しく顔を赤くしていた。
おやおや、と笑いながらユズはそっと部屋を出る。

いつも男勝りな彼女が可愛くなるなら、こんなのも良いじゃないか。
だって、今日は

(ミニスカートの日!)


「あ、カイさん!ミニスカートどう……」
「…諸刃の剣でェ!!」

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