司冬ワンライ・秋の夜長/占い

「ねぇ、お兄ちゃん!赤いハンカチ持ってない?」
ひょこりと顔を出した妹に一瞬きょとんとしてから、司は「あるぞ!」と答える。
「確かこの引き出しに…あった」
「さっすがお兄ちゃん!ちょっと借りても良い?」
「構わんが…何に使うんだ?」
手渡すと嬉しそうに受け取る咲希に聞いてみれば、ああ、と笑った。
「今日の星座占いで出たラッキーアイテムが赤いハンカチなんだぁ。持ってれば良いことあるかなーって!」
「なるほどな」
「あっ、お兄ちゃんも使う?!」
笑う司に、咲希がハッとしたように言う。
司も咲希も同じ五月生まれ、同じ星座だ。
ラッキーアイテムも同じだと気づいたらしい咲希が返してこようとするのを司は止める。
「オレより咲希が持っていると良い!なんと言ってもオレはスターだからな!幸運は自分で引き寄せてみせる!」
「流石はお兄ちゃん!!じゃあ、ハンカチ、借りるね!!お兄ちゃんと同じくらい、幸運を掴んじゃうんだから!」
司のそれに咲希が明るく笑った。
と、そういえば、と少し上を向く。
「とーやくんも五月生まれだけど、星座は違うよね。ちょっと不思議な感じ」
「そういえばそうだなぁ」
後輩であり幼馴染、そして恋人でもある冬弥は司たちと同じ五月生まれだが、星座は違っていた。
ちなみに、司は牡牛座、冬弥は双子座だ。
「…なあ、咲希」
「なあに、お兄ちゃん!」
朝の用意に戻っていこうとする咲希に声を掛ける。
不思議そうな顔で振り向いた咲希に司は口を開いた。
「…双子座の今日のラッキーアイテムはなんなんだ?」




その日の夜。
司は冬弥に電話をかけていた。
今日は休日、加えて司もショーがありどうやら冬弥の方もイベントだったようで、会おうにも会えなかったのである。
「もしもし?冬弥か?すまんな、夜遅くに」
『…いえ、寝る前に先輩の声が聞けるのは嬉しいです』
柔らかい彼の声が嬉しいことを言ってくれた。
自然と顔がニヤける。
『ところで、どうかしたんですか?』
「いや、用はないのだが…」
『…だが?』
見えてなくても不思議そうな冬弥のそれに司は笑った。
「…なぁに、今日の占いで双子座のラッキーアイテムが好きな人の声、だったからな」
『…そう、でしたか』
嬉しそうな冬弥の声音に司も小さく笑い、ベッドに寝転ぶ。
「秋の夜は長い。たまにはこうやって話しながら眠るのも良いものだと思ってなぁ」
『…先輩の声を聞きながらだと、とても良い夢が魅れそうです』
「そうだな、オレもだ」
くすくすと司は笑いながらスマホを持ち替えた。
他愛の無い話を、さてどれからしようか考えながら。



たまには占いの、ラッキーアイテムを提供するのも良いじゃないか。

好きな人には幸せになってほしいものだろう?


(秋の夜長に、優しい声を響かせて


それは司にとっても幸せを運ぶ、音)

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