類冬ワンドロ・おばけ/ハロウィン

さて、もうすぐハロウィンである。
ハロウィンショーをするのだが、ハロウィンにはおばけ、というのは些か安直すぎる気がして、類は悩んでいた。
何かもっと…観客が驚くような……。
「…神代先輩?」
小さな声に振り向けば、後輩であり恋人でもある青柳冬弥がこちらを見ていた。
「やあ、青柳くん。今帰りかい?」
「はい。神代先輩も帰りですか?」
「ああ。…良かったら、一緒に帰らないかい?」
にこ、と笑うと冬弥はすまなそうな顔をする。
不思議に思っていれば、彼は今日買い物に寄るから難しいのだと告げた。
「…せっかく誘ってくださったのに、すみません」
「構わないよ。…ちなみに、何を買いにいくんだい?」
「お化けの、仮装です」
「…ん?」
冬弥の答えに思わず首を傾げてしまう。
彼の口から信じられないそれが飛び出したからだ。
「…もう一度、聞いても?」
「お化けの仮装です。…白石のカフェでハロウィンイベントをやるみたいで…普段からお世話になっているので手伝おう、と」
「…なるほどねぇ」
冬弥のそれにようやっと納得した類は「なら」と提案する。
「もし君が良ければ僕がプロデュースしてあげようか」
「…!でも」
「青柳くんよりは、ハロウィンイベントに詳しいと思うのだけれどね?」
にこ、と笑うと冬弥もそうだ、と思ったのだろうか。
よろしくお願いします、と手を出してきた。
「もちろん。僕が君を素敵なおばけにしてあげよう」
その手を取り、類は笑う。
ハロウィンにおばけ、なんて単純なそれでもありかもなぁ、なんて可愛らしい冬弥を見ながらぼんやりと、思った。




おばけなんてないさ、おばけなんて嘘さ


(だって、ハロウィンに託つけて出てきたおばけなんて、それより怖い魔に食べられてしまうからね)

name
email
url
comment