司冬ワンライ・木枯らし/手をつなぐ

秋はどこにいったのだろう、というくらい、今年の秋は寒くなるのが早かった。
司も早々に防寒具を出し、妹にも身につけさせていた…尤も出し始め当初は「もー、お兄ちゃん!まだ必要ないから!」と言われてしまったが。
今日は木枯らし第一号が吹くらしい。
十一月ともなれば当然だろうが…はて、去年はこんなにも寒かっただろうか。
手袋を身に着けた手を擦り合わせ、司はふと前を見る。
前を歩くのは見慣れたツートーンカラー。
「おぅい、冬弥!」 
「…司先輩」
手を振りながら駆け寄ると、振り返った彼は嬉しそうに表情を崩した。
「おはようございます、先輩」
「ああ、おはよう、冬弥!今日も寒いな!」
「…そうですね」
小さく微笑む彼は学校指定のコートと紺色のマフラーをしている。
…だが。
「冬弥、手袋はどうしたんだ?忘れたのか??」
「…え、あ」
指摘すれば冬弥は目をぱちくりとさせてから、いえ、と微笑んだ。
「…忘れたわけではないんです。ただ…」
「?ただ?」
「…両手で冬を感じられるのも良いな、と思いまして」
首を傾げる司に、冬弥は言う。
昔から父親にクラシックを強制させられていた彼は、手だけは大切にしなければならないと強いられていた。
それこそ体育は見学ばかりだったし、家庭科に至っては座学しか受けられなかったらしい。
冬弥にとって冬の手荒れなんぞ以ての外だったのだろう。
だから、こうして寒さを両手で感じられるのは嬉しいのだという。
「…だがなぁ、悴んだ手だとペンを持つのも困るだろう。…っと」
司は片方の手袋を外し、冬弥に差し出した。
「ほら、これをつけておくと良い!」
「えっ、でもそうすると司先輩が寒いのでは…」
「なぁに、もう片方はこうするからな!」
驚く冬弥の手を取り、司はぎゅっと握りこんだ。
所謂、恋人つなぎ、と言われるそれで。
「…先輩」
「ほら、こうすれば暖かいだろう?」
「…はい、とても」
冬弥が嬉しそうに笑う。
木枯らしが吹くほど寒い通学路で。

「…司先輩。あの、手袋をお返しするのは…その」
「…帰りの方が寒いに決まっている。家まで送るから連絡をくれないか?」
「…ありがとうございます、司先輩」

嬉しそうに微笑む可愛らしい恋人の手を持ち上げ、握ったままそっとキスを落とす。

今日はあまり寒くないな、と、そう思った。



『青柳くん、手袋を座長さんに片方貸してもらったんだって、今日の練習の時すごく嬉しそうにしてたんだよ』
「えっ、お兄ちゃんそんなことしてたんだ?!後で聞いちゃおっかなぁ!」

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