バレンタイン キス

街中で聞こえる音楽が、唯一よく分からない季節がやってきた。


「ちわッス…って、レンだけか?」
セカイのカフェにいつも通りやって来た彰人は、扉の中、やっほー!と手を振るバーチャルシンガー、鏡音レンを見つけて首を傾げる。
確か、相棒である冬弥が先に行っていたはずなのに。
「メイコなら買い物に行ったよー?」
「いや、メイコさんじゃなくて」
ぴょん、と椅子から飛び降りたレンに息を吐きながら彰人は中に入り、扉を閉めた。
きょろきょろと辺りを見渡し、やはり中にいないか、と確認を済ませる。
「冬弥がな、先に行ってるって言ってたんだよ。…見なかったか?」
「冬弥ー?冬弥なら、カイトとキッチンにいるよ」
「へぇ…。…なんでキッチン?」
レンから返ってきた言葉に、やっぱり来ていたのか、と思いながら、疑問符も浮かべた。
何故またキッチンなんかに。
冬弥は別に料理が好きなわけでもないし得意だと聞いた覚えもない。
寧ろ、料理をやったことがあるかどうかも怪しいくらいなのだ。
それなのに何故。
「なんかねぇ、カイトに教えてほしいことがあったんだって」
「はぁ?教えてほしいこと?」
楽しそうなレンに、彰人は眉を顰めた。
カイトと冬弥は珈琲の話で趣味が合う。
だから、最初はキッチンで珈琲の話をしているのだと思っていた。
だがすぐに、珈琲の香りがしないな、と思い直す。
代わりに甘い香りがしてきて、首を傾げた。
冬弥は甘いものはあまり得意ではないはずだ。
それなのに、よりによってチョコレートの香りがする。
「んん?んんん??」 
疑問符が頭上に飛び回り、理解がまるで出来なかった。
「大丈夫大丈夫!カイト、料理は出来るからさ!」
「いや、その心配はしてねぇけど。つか、やっぱり料理してんだな」
「うん、まあね。もう少しで終わると思うよ」
笑うレンに、何か秘密にされているんだな、と感じながらも頭を掻く。
無理に聞き出したって何もならないのは知っているからだ。
…と。
「…あれ、彰人くんだ!冬弥くん、彰人くん来てるよー!」
「…え、彰人?」
キッチンから出てきたカイトが手を振り、奥の方に声を掛ける。
ひょこりと出てきた彼は黒いエプロンを着けていた。
「随分早かったんだな、彰人」
「…まあな。バイトが早く終わったんだよ」
「そうか」
ふわり、と冬弥が微笑む。
レンが入れ違いに、カイトを引き連れてキッチンに入っていった。
「…んで?カイトさんと何作ってたんだ?」
「ああ。チョコレートだ。トリュフが一番簡単だと聞いたからな」
楽しそうに笑む冬弥に、ふぅん、と軽く返す。
「結構上手く出来た気がするんだ。まだ梱包はしていないが、食べてくれ」
「おぅ…。…ん?」
ほら、と見せられるチョコレートをつまもうとして、首を傾げた。
「…誰かにやんのか?これ」
「?彰人にあげるために作ったんだが」
「??チョコレートを?嬉しいけど、なんでまた」
「…?今日はバレンタインだろう?」
「…。…あ」
首を傾げる冬弥に、数秒ラグが空いて、ようやっと理解する。
冬弥が料理をしていた訳を。
そういえば、街ではバレンタインの音楽が流れていたっけ。
「…もしかして、忘れていたのか」
「いや。絵名がなんか気合い入れてたから覚えてはいたけど…。まさか、冬弥が作ってくれるとは思ってなかったんだよ」
「ああ。…流石に家で作る勇気はなかったからな。せっかくなら、手作りを食べてほしいだろう?」
ふわ、と冬弥が笑う。
そのまま出来たばかりのトリュフをつまみ上げ、口の前まで持ってきた。
当たり前のような顔をするから、彰人も小さく息を吐いて口を開ける。
トリュフを入れようとする寸前、その手首を掴み、指ごと口に含んだ。
え、という顔の冬弥の指を舐め、トリュフを溶かしていく。
「…!あき…っ!」
珍しく声を荒らげる冬弥が可愛くて、しばらくそうしていたが、指を離してやり、そのまま抱き寄せた。
「…っふ…」
無防備に開いた冬弥の口に舌を入り込ませ、口内に残ったチョコレートを塗りつけていく。
「は、ぁ……」
「…ごっそーさん」
熱い息を吐く冬弥に、ニッと笑い、バットに乗ったトリュフを、今度は普通に食べた。
甘味が口いっぱいに広がる。
「…まだ甘いんだが」
「…わぁるかったよ」
むぅ、と不機嫌そうな彼に、笑いながら言うと、悪くはないが、と歯切れの悪い返事をした。
「ないが…どした?」
「…責任を、取ってほしい」
首を傾げる彰人に、冬弥が言う。
その耳元がほんのり染まっていた。
思わず固まり、宙を仰ぐ。
まったく、冬弥ときたら。
これで無意識なのだから、たまらない。
…そのせいでどれだけ我慢していることか!
「…。…いつもんトコ行こうぜ」
囁くとこくりと頷く。
可愛いなぁと思いながら、彰人は触れるだけのキスを、した。


バレンタインディキッス


それは


幸せの味が口いっぱいに広がる…チョコレートキス


(彼が美味しく頂かれてしまったのは…また別の話)

初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はバレンタインひゃっほう!
桜井えさとこと、鳩の人です。
なんかもう公式が最大手過ぎて、これ公式でやってない?大丈夫??ってなります、公式ではチョコ作ってないから大丈夫。2周年チョコ作り始めたらどうしような!!
公式の彰人はスパダリだからうちの彰人はちょっと察し悪くしてみました、疲れてたんだと思います(お前がな)
主催者様、この度はありがとうございました!彰冬に幸多かれ!

参加者様が豪華で、情人節

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