バースデーザクカイ

ゲノムタワーの上の方で音がする。
日付を超えた合図だろう、とザクロは身を起こした。
「…鬼ヶ崎」
「…。…ん」
「鬼ヶ崎」
「…なんで、ぇ…」
隣でうとうとと微睡んでいたカイコクを揺り起こす。
少々迷惑そうな顔でこちらを向いた彼の唇に、軽く口付けた。
「…誕生日、おめでとう」
「…。…ああ」
ザクロのそれにカイコクはややあってからふにゃりと笑う。
彼の誕生日にこうして祝うことは、もはや当たり前になりつつあった。
「お前さんも、毎年律儀だねぇ」
「貴様が言うのか、それを」
くすくすと笑いながら互いに言う。
確かに毎年祝っているが、それはカイコクが先に祝ってくれるからだ。
「クリスマスは盛大に祝っといて、お前さんの誕生日はやらねぇってわけにゃいかねぇだろ」
彼がそう言って軽く笑う。
そういう、何でもないことを当たり前にしてくれるカイコクが好きなのだ。
…本人には伝える気は毛頭ないが。
それを隠してザクロも笑みを浮かべてみせる。
「それは俺も同じだな。…節分は行うのに貴様の誕生日を祝うことはしないのもおかしな話だろう」
「…。…今年の節分何すんだ?」
「知らん…が、パカが手巻き寿司砲を作ると張り切ってはいたな」
「…なん、なんでぇそりゃ」
ザクロのそれにカイコクは怪訝な顔をした。
それに首を振って、知らないことを伝える。
「それは明日になれば分かるだろう。…で?」
「ん?」
「貴様はプレゼント、何が欲しいんだ」
首を傾げるカイコクにそっと囁いた。
目を見開いた彼はふは、と笑う。
「去年までとは違うじゃねぇか」
「まあな。貴様はサプライズは嫌いだろう。ならば、直接聞いたほうが早いからな」
「違いねェ」
くすくすと肩を揺らすカイコク。
別に贈ってきた物を喜ばなかったわけではない。
だが、どうせなら彼が一番欲しいものを贈りたくなったのだ。
さんざ迷ってはいたが、そういうものは聞いてみたほうが早いと開き直った。
「それで、何が良いんだ?何でも、とはいかないがそれなりに…鬼ヶ崎?」
「…ん」
聞くザクロに、カイコクが両手を広げる。
不思議に思いながらその腕の中に体を沈めれば彼は満足そうに微笑んだ。
「は?え?おい、鬼ヶ崎?!」
「…」
焦るのはザクロだけで、カイコクはそのまま眠ってしまう。
体の良いだきまくらが欲しかったのかそれとも。
「…勘弁してくれ」
可愛らしい寝顔をザクロに見せるカイコクに、思わずそう呟く。
彼の安眠と引き換えに、今日は眠れそうもないな、と思った。


(警戒心の強い猫みたいなカイコクに


誕生日くらい、穏やかな安眠を)




「…ぅ、ん…ん?は、え?忍霧??」
「おはよう、鬼ヶ崎。…プレゼントは気に入ったようだな」

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