司冬ワンライ・ライブの後で/高揚感

珍しく冬弥がライブに誘ってくれた。
今までは司もショーがあるからなかなか行けなかったのだが、今回はばっちり時間を合わせることができたのである。
司も楽しみにしていたし、冬弥も嬉しそうに小さく手を振ってくれた(隣りに居た彰人は嫌そうだったが)
そして、端的に、簡素に言おう。
凄いライブだった。
まだ身体が高揚している。
自分も何かやりたいと、歌って踊ってみんなを笑顔にしたいと。
自分がショーをやった後とはまた違う高揚感が身体を包んでいた。
歌がうまいのは知っていたし一緒に歌ったこともあるが、まさかあんなパフォーマンスまで覚えているとは。
見たことがなかった冬弥の一面にゾクゾクした。
一刻も早く冬弥に会いたい。
会って、会って…それから?
「…司先輩!」
「冬弥!」
ぐるぐると考えていればトーンの高い冬弥の声が司の耳に届いた。
振り返れば頬を紅潮させた冬弥がいて。
「来てくださってありがとうこざいま…うわっ?!」
「凄いライブだったな!いつもあんなパフォーマンスをしているのか?!」
ぐいっと手を掴み、人気のないところに引き込む。
感想とは呼べない、熱量だけは篭ったそれをぶつければ驚いた顔をしていた冬弥が、ふは、と笑った。
「…先輩からそう言ってもらえて、良かったです」
「む?」
「俺としても、最高のパフォーマンスが出来たと思っていますので。…それが伝わって、良かった」
「…冬弥」
柔らかく微笑む冬弥は、普段より儚く、可愛らしくて。
彼を引っ張って、キスをした。
生まれた高揚感を分け与えるように。
冬弥が持つ、ライブが終わった後の高揚感を奪い取るように。
「…ん、はぁ、ぅ……」
「…冬弥?」
ぎゅう、と掴まれる服に口を離せば、冬弥は目を潤ませぽやりとこちらを見ていた。
少し向こうでは他の人のライブが始まっていて。
熱気と、背徳感とがごちゃまぜになったそれが司を蝕む。
「流石にこのまま帰すのは不味いな」
言い訳するように小さく呟き、再び口付けた。


ライブの後で、なんて言ってやれない自分もまだまだだな、と自嘲した。


(あんな可愛い顔の冬弥を、放り出せるわけがなかろう!)

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