イチャイチャ10題・背後から抱える(がくキヨ

スタジオを出たときはもう5時を回っていて、幾分暑さもマシになっていた。
本当に今年の夏は暑い。
・・・とマスターに愚痴ってみたところ、「・・・ポニテじゃね?」と言われた。
まあこれはアイデンティティだから仕方があるまい。
・・・そういえば、ともう一人忠実にアイデンティティを守っている人を思い出した。
その人は確か今日は当直で、もうすぐ学校を出る時間のはずだ。
「あ」
その方向に足を向けようとすると少し驚いた表情のその人・・・キヨテル先生がいた。
暑いだろうにスーツをきっちり着ている姿は見ていて少し尊敬する。
「もう終わったんですか。早かったですね」
「先生こそ早いんじゃないか?」
「そうですか?いつも通りですけど」
苦笑しながら話しかけるといつものように先生が俺の隣についた。
迎えに行くのは嫌がるが、自分から来る分にはいいらしい。
まあ先生のそういうところも可愛らしいが。
「ああ、そういえばマスターが今日の夕食は勝手に食べておいてくれ、と」
「そうなんですか?また何故」
「PVの完成が間近故、仕上げてしまいたいそうだ」
「・・・マスター変なところで真面目ですよね・・・」
いいですけど、と先生が溜め息を吐く。
「久々に俺が何か作りましょうか。食べたい物あります?神威」
最近女性陣に任せ切りでしたし、と笑う先生。
そういえば今日は家に二人きりか。
久しく先生の飯も食べていない。
・・・徹夜明けのマスターに自慢する材料が出来たな。
「そうだな、茄子料理でも?」
「言うと思いました」
くすり、と笑った先生は「じゃあマーボーナスで」とと告げた。
「中華か。先生が選ぶメニューにしては珍しいな」
「俺だって毎回和食しか作らないと思われたくありませんか・・・ら?」
機嫌よく喋っていた先生の声に疑問符が混じる。
それにえ、と空を仰いだその時だった。
先ほどまであんなに晴れていた空が灰色の雲に覆われ、ぽつりぽつりと雨が降り出してくる。
「・・・雨・・・。降るとは言っていなかったのに」
少し嫌な表情をしてみせる先生。
「強くなる前に屋根のある場所を捜そう。家までは距離があるし・・・夕立なのだろうから待てばすぐに止む」
「そう、ですね」
「では行くぞ」
「・・・え、あ、ちょ!」
先生の腕をつかんで俺は走り出す。
確かこの先に公園があったはずだった。
「う、わ」
小さな公園に入った瞬間、怖いほどの勢いで雨が降り出してくる。
取り敢えず雨が凌げる所を、と思った俺は大きいドーム上の滑り台の中に身を入れていた。
「・・・大丈夫か?先生」
「少し濡れたくらいですよ。・・・まさか俺の制止を振り切って走り出すとは思ってませんでしたけど?」
「まあそう言うな」
嫌味っぽく言う先生に苦笑しつつ座り込む。
ドームは大きいとはいえ大の大人二人にとってはこの上なく、狭い。
「・・・もう少し詰められませんか」
「スペースがあると思うか?・・・ほら」
「え・・・う、うわっ!」
困惑気味の先生の手を引いて俺の胡坐をかいた上に座らせた。
「ちょ、何す・・・!」
「スペースの関係上だ」
俺を仰ぎ見て文句を言う先生をそう言って黙らせる。
こうやって座ると先生は案外・・・小さい。
「・・・神威、今何か失礼な事を考えたでしょう」
「いや、何も?」
むす、とした顔の先生に笑いかけて背後からぎゅ、と抱きしめた。
「・・・ちょっと」
「なんだ?」
「・・・暑いんですけど」
「狭いものでな」
「そこまで密着する必要があると?」
「まあ、そうなるだろう」
「・・・まったく・・・」
俺の返答に何かを諦めたのか溜め息を吐き出した先生はそのまま前を向いた。
黒っぽい茶色の髪が肌に当たる。
「神威の髪、こんなに伸びていたんですね」
「ん?ああ、まあな」
「勿体無いから切れとは言いませんけど・・・。この髪、好きですし」
ドームの中に先生の優しい声が響いた。
「そうか?俺は先生の髪の方が好みだが」
「手入れが楽なだけですよ」
穏やかな声でそう言った先生が小さく笑った。
他愛もない会話と共にゆったりとした時間が流れる。
持ち帰り忘れたシャベルに当たる雨の音がまるでメトロノームの様で。


相変わらず外は凄い雨で帰れそうにもない。

「・・・雨、早く止むといいですね」
「・・・そうだな」

だが・・・この雨なら何時までも続けば良いと、そう思った。







少し小さな貴方といつまでもこうしていたいと願う、


そんな夏の午後。
ーーー
短めがくキヨ!
がっくんの一人称小説なんて書けないよ!!ってなってました、頑張った←
いちゃ・・・いちゃ・・・?
いちゃいちゃ!!!

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