鬱的花言葉で1日1題・朔アル(ハイドランジア・鳩彼SSS

目覚めが悪い。
そういえば此処最近ろくな夢を見ていなかった。
「お早うございます、朔夜様」
「・・・ああ」
通常通り淡々と挨拶をするアルベールに私もただ頷いて見せる。
アルベールは私の専属執事であり・・・私を殺す殺し屋だ。
優秀な彼は私の命に背いた事等一度も無い。
ただの、一度も。
「アルベール」
「・・・はい」
部屋の窓を開けたアルベールが振り向く。
「もし・・・もしも、父様やル・ベルの者を全て殺し、私を殺してお前の命も絶て、と命じたとするなら・・・どうする?」
「それは・・・」
「・・・例えの話だからな?」
口を開こうとするアルベールに私は釘を刺した。
・・・こいつは本当にやってしまいかねないからな・・・。
「命に従う、それ以外の選択肢は御座いません」
「ほう?」
「私の雇い主は朔夜様です。当主様の命といえど、私は雇い主の命に従うまでです。そも、私には関係のないことで御座います」
一時たりとも迷わずにアルベールははっきりとそう答える。
「情の欠片もないな」
「情など、必要でございましょうか」
笑う私に表情一つ変えずにアルベールは言った。
雑務の報告をするのと変わりなく。
ただ、訥々と。
彼は語る。
「私に命令できるのは朔夜様1羽でございます。その他の命など、聞く必要もございません。私は命に従って確実に任務を遂行するだけにございます」
「・・・流石はアルベールだな」
「有難う御座います」
嫌味っぽく言った私のそれに、アルベールは律儀に礼して見せた。
ああ、そういう鳥だ、アルベールは。
だから私の傍にいることを許したのだ。
白いカーテンが揺れる。
彼の黒い燕尾服と相俟って、それは私の目にとても美しく映った。
感情などいらない、ただそこにいれば、それでいい。
「私は貴方を殺すために存在するのです。・・・違いますか、朔夜様」
「・・・ああ、相違ない」
真っ直ぐに私を見つめる瞳に私は小さく微笑んだ。








もし本当に私が死ななければならない状況になった時、この烏は私を本当に殺すだろう

恐らく、少しも迷わず

数秒と躊躇いもせず


私との契約を果たすだろう




それはまるであの庭に咲く花の様ではないか

氷の様に、美しく咲く、あの

ーー
朔アル・貴方は冷たい・冷淡・無情

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